心のままに

金澤翔子さんの書道展を観に、上野の森美術館まで行ってきました。書をたしなむダウン症の女性として世に出た翔子さんですが、もうすでにひとりの書道家として評価されるべき作品の数々が並んでいて驚きました。ここまで母娘二人三脚で来るために、どれだけの涙と鍛錬の日々があったのでしょうか。私たちが目にする墨汁の翔ぶような様は、そうしたあらゆる苦悩を帳消しにし、観る者全てに慈愛を与えてくれているようです。

翔子さんのひとつ1つ作品の横に、お母さまによって綴られた文章が添えてありました。翔子さんにまつわるエピソードを読むと、その作品がより深く立体的に見えてくるようです。ピンクの名刺を誰にでも分け隔てなく、犬にも配ったという話や、ニューヨークのタワーに登って見た高さよりもお父さんに肩車をしてもらった高さの方が高く感じたという話など。私たちの考える価値観などは、いかに形や枠組みにはめられてしまっているものかと思い知らされるのです。

そう言えば先日、ケアカレ美術館に新しい作品が仲間入りしました。山口航太さんによる「ダンス」という絵です。色彩の鮮やかさと西洋絵画のような雰囲気に魅せられて購入しました。ダンスをしている女性の笑顔を見ると、ついこちらまで微笑んでしまいます。たまたま教室を見学に来てくださった方と、この絵の話になり(彼女は絵を教えているそうです)、「私たちはどうしても上手く描こうとしてしまうので、このようには描けません。欲が全く感じられない素敵な作品ですね」とおっしゃってくださいました。

欲がないことについては、翔子さんのお母さまも書いておられました。与えられるだけ与えてしまう。そんな与えるばかりの姿を見て、かつては心配していたけど、今は神さまが見て与えてくださっているように思えるようになったそうです。欲があるからこそ成長できることも確かですが、もしかすると私たちは欲張り過ぎているのかもしれませんし、欲しがる割には他人に対しては十分に与えられていないのではないでしょうか。必要以上に欲を抱かず、まずは与えながら、心のままに生きていければいい。ふたりの作品を通して、そう教えてもらったような気がします。

 

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