「注文をまちがえる料理店」

「注文をまちがえる料理店」は、間違えることを受け入れて、間違えることを一緒に楽しむレストラン。2017年の夏、3日間だけオープンしたところ、大きな反響を呼び、300人近くの人々がこのお店を訪れました。そのコンセプトを受け継ぎ、日本全国各地で実施していこうという動きも出てきています。その3日間に起こった出来事を、ステキな写真を織り交ぜながら、余すところなく伝えているのが本書です。なぜ注文を間違えるのかですって?もちろんお分かりかと思いますが、スタッフ(ウエイターやウエイトレス)全員が認知症なのです。

 

宮沢賢治の「注文の多い料理店」に由来していると思われる、お店の名前がまず面白いことでインパクトがあります。たとえば生ける屍(しかばね)や小さな巨人、液体ガス、耳に痛い静けさなどの矛盾語と同じぐらい、「注文をまちがえる」ことと「料理店」は矛盾しているように思えるからです。それは私たちの、料理店においては注文を間違えてはいけないという無意識の抑圧が根深いことを示しています。間違えることは悪いことであり、特に接客業をする人が間違えてどうするのかとほとんどの人は考えるはずです。でも不思議なことに、このお店では注文を間違ってしまっても許され、むしろ間違わなかったことでガッカリするお客様もいるのだから不思議です。

 

認知症の人たちと共存し、共に生きることのできる社会をつくりたいというコンセプトは素晴らしいのですが、実行するとなったら大変です。そして、実行しながらも改善をしていかなければならないのだからなおさら。特に1日目、2日目、3日目と改善をかけ、認知症の方々に対する理解を深め、接し方を学びつつ、それぞれが成長していく内容は示唆に富んでいます。「注文をまちがえる料理店」の運営のレシピを、以下に引用させていただきます。

 

・料理店はオシャレに

・オイシイ料理をそろえる

・間違えることを目的にしない

・ホールスタッフの人選は福祉の専門家に任せる

・総入れ替え制、1コマ90分のゆったり設計がおススメ

・お客様との共同作業がグッド

・料理店の運営は、効率的すぎず、自由すぎない

・主役は当事者。当事者の姿が、世の中を変えていくと信じる

 

 

どうでしょう、彼らが3日間で得た気づきは、そのまま介護施設の運営のレシピとしても用いることができるのではないでしょうか。これこそが「注文をまちがえる料理店」や介護施設の運営の仕方であり、さらには超高齢社会の生き方なのだと思います。私たちは間違えないことばかりにとらわれてしまい、お互いに窮屈な世の中を生きています。人間だから忘れることもある、間違えてもいいというメッセージは、認知症の方々だけではなく、私たちをも幸せにするのではないでしょうか。そう、私たちは認知症の人たちをサポートしながら、何かを教えてもらうのです。認知症の方々の姿を鏡として見て、私たちが変わってゆくべきなのです。