「ダイアログ・イン・サイレンス」

新宿のLUMINEゼロで開催中の「ダイアログ・イン・サイレンス」に参加してきました。2年前の冬にダイアログ・イン・ダークに行って以来のダイアログ体験でした。ダークは光のない暗闇の世界、そして今回のサイレンスは、音のない世界における対話ということです。福祉の世界における障害者体験ということではなく、ひとつのエンターテイメントとして、様々なバックグラウンドを持つ人たちが参加されていました。音が聞こえない、つまり言葉によるコミュニケーションが取れない世界で、私たちのコミュニケーションをどのように変化するのでしょうか。

 

入り口でルールが伝えられます。ここから先は、言葉(話すこと)や手話によるコミュニケーションは禁止、また壁を触ったり音を立てるのも禁止です。アテンドしてくれるのは、聴覚障害のある、ゆうかさんという女性でした。一緒に参加するメンバーを見渡してみると、親子連れが1組(お子さんは小学5年生ぐらい)、男女のペアが1組、遠方からひとりで来ていた女性が1人、そして外国人男性が3名(ドイツ人と韓国人)と通訳を務めていた日本人女性が1人という、まさに多種多様なグループでした。

 

最初のアトラクションは、手の形で遊んでみようという内容でした。まぶしいぐらいの光が上から照らされ、自分の手の形の影をテーブルに映します。△、□、○、♡などから始まって、キツネや鳥など、手の表情だけで様々な意味を持った形をつくることができるのです。

 

ダイアログ・イン・サイレンス全体を通し、(手話ではなく)手の動きや形を使って表現することが多く、つまり言葉に頼らない、非言語コミュニケーションを取るとき、手というツールは大きな意味を持つということです。手にも表情があり、時として言葉以上に、手の動きは何かを伝えるために有効だということですね。

 

次のアトラクションは顔の表情をつくること。額縁からそれぞれ顔を出し、嬉しい顔、悲しい顔、怒った顔、酸っぱい顔、美味しい顔など、アテンドのゆうかさんはさすが言葉を使わないコミュニケーションの達人だけあって、表情豊かに伝えてくれます。それに比べて、私の無表情なこと(笑)。いかに普段は顔の表情を意識しないでコミュニケーションを取っているかを痛感します。

 

最後のアトラクションは、相手側には見えていない写真の内容を、身振り手振りを使って説明し、その通りの状況を模型を使って再現してもらうというゲームです。ゾウとかカメとか飛行機とかの物体についてはボディラングエッジで伝えられても、それらの位置や向きを伝えるのが困難でした。

 

そもそも、アテンドさんが身振り手振りで説明してくれるのですが、そのゲームのルールを理解するのが最初は難しく、戸惑ったのですが、最終的には外国人と力を合わせて、上手く相手に伝えることができたと思います。実はこのことが、コミュニケーションの本質を理解するために、私にとっては貴重な体験になりました。

 

 

たった2時間の体験で多くを語るべきではないと思いますが、ダイアログ・イン・ダークに比べると、今回のダイアログ・イン・サイレンスの方が不安を感じませんでした。やはり目が見えない世界というのは恐怖であり、視覚情報を奪われることに不安を感じざるをえません。

 

対して、音が聴こえない世界、ここでは話し言葉によるコミュニケーションができない世界では、それに代替するツール(表情や手の動き形、アイコンタクト、筆談など)があるため、コミュニケーションの方法が変わるということです。

 

話し言葉はコミュニケーション手段としては便利なものですが、それはあくまでも表層です。それよりも大事なのは、実は表情や手の動き形、身体全体を使ったボディラングエッジなどの非言語的コミュニケーションなのです。

 

ここまでは教科書的な感想でしかありませんが、今回、言語の異なる(言葉の通じない)外国人と一緒に回ったことで、言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションよりも大事なのは、自分たちが何をしようとしているのかに対する共通理解なのではないかと思いました。外国の人と目を見合わせるだけでコミュニケーションができたのは、そのゲームの目的に対する共通理解があったからである気がしたのです。

 

 

私たちがお互いを理解できるは、ある程度の共通理解があるからこそ。おそらく相手はこう考えているはず、こうしてもらいたいはず、こういう気持ちを抱いているはず、などといった想像が働くのは、人間として同じような文化や環境の中で育ってきたからではないでしょうか。そう、私たちはもっと上手くコミュニケーションを取れるのです。そんな明るい希望を持つことができました。

 

★ダイアログインサイレンスの公式HPはこちら