教える立場にある全ての人たちに

先日、同行援護従業者養成研修の先生方と教え方の研修を行いました。湘南ケアカレッジは「世界観が変わる福祉教育を」という理念を掲げていますが、そのための基礎となる教え方や考え方です。この教え方は私が子どもの教育にたずさわっていたときに、子どもたちから教えてもらったものです。介護の現場で後輩や新人を教えたりする役割を担っている卒業生さんにとっても参考になると思いますので、ぜひ読んでみてください。*長くなるので、重要な箇所だけ太字にしました。

私が教えていた子どもたちは、どちらかというと勉強が好きではない生徒さんたちでした。できる生徒さんを教えるのは(専門知識があれば)それほど難しくないのですが、できない生徒さんを教えるのは難しい。また、大人は思っていることがあっても言わなかったりしますが、子どもは素直に反応するので、分かりやすいぐらい教え方の効果が表に現れます。正しい教え方をすれば素直な生徒さんが、間違った教え方をしてしまうと、もうそこから先はどれだけ正しいことを言っても聞き入れてくれなかったりします

 

 

特に塾と呼ばれる教育は、お金をいただいて来てもらっているため、子どもたちの成績が上がらなければ退塾となり、生徒さんがいなくなってしまうシビアな世界です。小学校や中学校、高校、大学、専門学校等であればよほどのことがないと辞めたりしませんし、学校の先生はよほど評価が悪くない限り替えられたりしませんが、塾の先生は生徒からの評価が低かったり、成績が上げられなかったりすると、すぐに下されてしまいます。だから、自らが生き残っていくために、どこの教育機関よりも、教える方法(教え方)や接し方については日々考えざるをえないのです。

この教え方については、子どもたちだけではなく、もちろん大人にも有効です。基本的な教え方は普遍なのですが、ほとんどの先生はできていないのが現状ですし、分かっていてもできないのが実状です。介護の世界において、自立支援が大切と分かっていてもなかなかできないのに似ているかもしれません。なぜできないかというと、人間の習性として、できていないことや人、また悪いところについ目が行ってしまうからです

 

できていないところを指摘するのは、脊髄反射であり、感情的であって、教えるという行為ではありません。教えるためには、教える側は常に冷静にならなければいけないのです。まず、出来ていることと出来ていないことを見分けるのは、専門性や専門知識がないとできません。そして、この2つのうちで、できていないことを見つけるのは簡単ですが、できていることを見分けることが難しいのです。

 

まずは何でも良いのでできていることを褒める・認めることで、生徒さんは安心し、心を開いてくれます。人は自分を認めて(褒めて)くれた人を認める(褒める)のです。もし褒める部分がひとつも見つからなかったとしても、最後までできたことを認めたり、取り組んでくれたことを褒めます。

 

その次のステップとしては、できていなかったことを、「ここをこうしたらもっと良くなる」、「こうした方がいいよ」という前向きなベクトルで褒め、認めます。「○○なので~」と具体的な理由やメリットを加えられるとなお良いです。「こうしたらダメ」などといったちくちく言葉を使うのはよろしくありません。「絶対ダメ」といった言葉を使うのは、ケガや死につながる場合のみです。そして、実際に先生がやってみせます。デモンストレーションをしたり、見本を見せるということです。

 

次に、生徒さんにやってもらうことも大切です。なぜかというと、できていないことを伝えるのが教えることではなく、できるようになってもらうことがゴールですので、やってもらってできるようになってもらわなければならないからです。しかし、意外とやってもらうことを忘れてしまう先生が多いのも事実です。できないところを指摘して、それで満足してしまうのです。

 

「じゃあやってみようか」と生徒さんにやってもらい、できたら褒める、認める。ここがとても重要です。ここまでサイクルを回して、初めて本当にできるようになります。逆に言うと、ここまで行かずにどこか途中で止まってしまうと、相手には伝わっていないということになります。

 

よくある間違えパターンとしては、最初の褒める・認めるをすっ飛ばして、いきなりできていないところを教えるに突入してしまう感情的パターン、もうひとつは、せっかくやってもらっても、最後の褒め・認めがないパターン。どちらにしても、褒め・認めが教える側にとっては絶対に必要なのだということですね。そして、生徒さんができなければできないほど、モチベーションが低ければ低いほど、意識してこの教え方をしなければいけません

 

この教え方がいきなりできるようにはなるとは思いません。最初はこの教え方のサイクルを回すことをかなり意識して教え、そのうち意識しなくてもできるようになっているのが理想的です。これは教える者にとっての技術であり、教えるのが上手な先生とそうでない先生を隔てる壁でもあります。簡単なようで難しい。だからこそ、私たちは正しい教え方をしているのかと常に自問していかなければならないのです。