「健康で文化的な最低限度の生活」

テレビドラマ化されたことをきっかけに、3巻まで読んですっかり忘れていた続き(4巻~6巻)を大人買いして読んでみました。1巻を読んだときにも強く感じたように、今回も著者が現場のことをかなり詳しく調べていることが伝わってきました。特に5巻と6巻は、生活保護に関わる仕事、いや、もう少し範囲を広げて、人と関わる福祉の仕事とは何なのかが見事に描かれていて、この漫画を読んで福祉職に興味を持ってくれる人もいるのではないかと期待するほど。介護や福祉の現場で働いている人たちにとってはもちろん、全く知らない人々にもメッセージが届く漫画です。

主人公の義経えみるは、生活保護課に配属された新人公務員。今回のケースは、夫のDVから逃げるため、高知から息子の住む東京に出てきた75歳の林さんの支援です。狭い部屋で息子さんと2人で住むのは難しく、生活保護を受けながら息子の近くで1人暮らしをしたいと林さんは願います。しかし、「世帯単位の原則」の壁が立ちはだかり、生活保護はなかなか認定されず、しかも住む場所さえ見つけるのが困難です。えみるは林さんのために孤軍奮闘し、最後に林さんからの感謝の手紙を受け取りました。そして、彼女は最初のブレイクスルーを果たすのでした。

ケースワーカーの仕事に、「対象者に巻き込まれるな」という原則があります。えみるはいつも巻き込まれがちになり、問題を大きくしてしまいます。しかし、ひとりの上司が言った「巻き込まれず、キレイに仕事している人がいい仕事をしてるかと言うと、実は対象者が抱える問題が見えていないだけなんてよくあることで、実際は巻き込まれないと見えないことってあるんですよね」という言葉は本質に迫っています。

介護や福祉の仕事の本質は人と関わることであり、ある程度、巻き込まれないと見えてこない問題が存在するのです。もしくは対象者と真剣に関わろうとすると、巻き込まれてしまうことは避けられません。上手くすり抜けることはできても、結局それでは問題の核心に触れることはできず、仕事の本質である人と関わることができません。コントロールを失わない程度に巻き込まれる、もしくは巻き込まれるけど最後の手綱は渡さない。とても難しいけれど、とても大切なことです。

 

実は、ケースワーカーや介護・福祉の仕事だけではなく、どの仕事においても同じなのではないでしょうか。仕事をする以上は人と関わることは避けられず、人と真剣に向き合うとすれば巻き込まれることは必至です。巻き込まれているということは、その人ときちんと向き合ったという証でもあり、決して恥ずべきことではありません。仕事に慣れて、巻き込まれないように逃げる術を覚え、人と適切に関わることができなくなる方が私は残念だと思うのです。