世界観が変わる福祉教育を提供したかったのに

「空飛ぶ車がほしかったのに、手にしたのは140字だ」という世界有数の投資家ピーター・ティールの言葉があります。空を飛ぶ車のような壮大な夢と理想を掲げて、巨額の投資を行ってきたけれど、実現したのはツイッターとかフェイスブックのような文字情報にすぎないSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)でしかなかった、という自虐の意味を込めた言葉です。現実はほとんど変わらない、というあきらめに似た気持ちかもしれません。

 

ピーター・ティールとはスケールも何もかも違いますが、私も「世界観が変わる福祉教育を届けたい」という理想を持って湘南ケアカレッジを立ち上げ、先生方と一緒にこれまでやってきました。

最初の頃は、「人生観が変わりました」、「介護に対する見かたが変わりました」という反応が多くあり、自分たちがこうありたいと思っていた理想の研修や学校を実現できている気がしていました。湘南ケアカレッジに来てくれた生徒さんたちは、介護職員初任者研修をひとつのきっかけとして、実際に少しずつ人生が変わっていったのではないかと思います。

 

湘南ケアカレッジも今年で6年目を迎え、振り返ってみると、私たちは本当に世界観が変わる福祉教育を届けることができているのか、と疑問に思うことがあります。ここ最近の初任者研修や実務者研修のクラスを見てみると、授業にまともに参加していなかったり、エプロンをつけることすらままならなかったり、課題をきちんと提出できなかったり、授業中に他の生徒さんたちの迷惑になるほどにおしゃべりをしてしまったり、そんなことばかりに私たちの目と頭がとらわれてしまっている気がします。

 

そんなことではなく、「こういう研修(授業)にしてみたい」、「生徒さんからこんな良い反応や行動があったよ」、「こうするともっと楽しく、分かりやすいかもしれない」、「○○さん変わったよね」など、もっと良い話をしたかったはずなのです。

 

もちろん良かったこともたくさんあります。総合演習はより細かく実技の習得度合いを確認、復習できるようになったり、キャサリンレター(自助具をつくって試してみた生徒さんに対するキャサリンからのお手紙)が贈られたり、卒業生が介護福祉士の証明書を持って遊びに来たり、卒業生同士が職場で出会って仲良くなったり、手を焼いた卒業生が現場で楽しく働いていたりします。特に初任者研修は、これ以上改善することが難しいぐらいに完成されつつあります。在宅ケアサポーター研修がスタートし、これから先、ボディメカニクス研修やケアカレナイトなども開催していくつもりです。

 

 

もう1度、立ち止まって、私たちは何のために湘南ケアカレッジをやっているのかを問い直してみるべきなのでしょう。世界観が変わる福祉教育を届けたいという想いがなくなってしまえば、それは他の学校で行われている介護職員初任者研修や実務者研修等と何ら変わりはなく、私たちが教える意味はありません。偉そうに教えるのは誰にでもできることですが、生徒さんの世界観を変えることは私たちにしかできないと思いたいのです。それができないのであれば、町田にこれだけたくさんの学校がある以上、湘南ケアカレッジの存在価値はないのです。しばらくはこんな自問自答を続けながら、より良い学校を先生方と一緒につくっていきたいと思います。よろしくお願いします。