こうしてあげたい

先月の短期クラスの生徒さんが、授業後に私を教室の外に呼び出して、こう言いました。

 

「ここの授業を聞いて、本当に良かったと思っている。今、施設で働き始めていて、利用者さんにこうしてあげたいと思うことばかりなんだ」

 

授業の中で何か気に障るようなことがあったのかとヒヤヒヤしたのですが(笑)、その眼差しがあまりにも真剣で、彼は心からそう思って頑張っているのだということがヒシヒシと伝わってきました。こうしてあげたいという気持ちは、この仕事を続けていく上での原点だと思います。もちろん、その気持ちが余計なお世話になってしまったり、利用者の自立支援を妨げるようなことがあれば良くありませんが、相手の立場や気持ちを考えた上で、こうすると喜んでもらえるだろう、安心するだろう、快適だろうと考えること以上に大切なことはないと思うのです。

 

その生徒さんは高齢の男性で、第二の人生における仕事として介護を選んだそうです。とはいえ、この業界では何も知らない新人であり、まずは単純で地味な仕事をこなしつつ、孫のような先輩の下で夜勤までしているとのこと。最初は言われたようにやってみてはいましたが、次第にこの方法ややり方で良いのかと疑問が湧き始め、ちょうどそのタイミングで湘南ケアカレッジに来てくれました。先生方の授業を聞いてゆくにつれ、自分が現場で悶々と抱いていた疑問は少しずつ晴れていき、それまでは「こうしてあげた方がもっと良いのではないか」と思うだけであったのが、「こうしてあげたい」と思うようになったそうです。

 

まだ現場ではペーペーであり、先輩のやり方や現場の考え方に口をはさむことは難しいのですが、自分ができることは少しずつ変えていき、ゆくゆくは「そこはこうした方が良い」と教えてあげたいと思っているそうです。「私がいつか施設長になったときには、うちの職員は全員、ケアカレに研修を受けに行かせますよ」と意気込んでいました(笑)。その気持ちはありがたく受け取らせていただき、あとはその時が来るまで、彼が今の気持ちを失うことなく介護の仕事を続けてくれることを願うのみです。

 

「こうしてあげたい」という気持ちが尊いのは、そこに他者があるからです。藤田先生が介護職員初任者研修の授業の最後に、「介護」と「業務」の違いを話してくれるのですが、その間にある違いとは、つまり「相手のことを考えてする仕事」か「自分のための仕事」かです。つい私たちは仕事に慣れてくると、自分のための仕事をし始めますが、特に介護や福祉に携わる人たちに求められるのは、どうすれば相手にとって良いのかというマインドであり視点であり思考過程なのだと思います。そこから始まらないと、自分の「業務」をしてばかりで、本当の「介護」をすることはできないのです。