どのように実現するのか?

卒業生さんが突然、教室を訪ねてくれました。「話を聞いてもらいたくて…」と切り出した彼女は、これまでの介護の仕事のこと、今の仕事について、そしてこれからどうしていくべきか悩んでいると語ってくれました。ケアカレで初任者研修に来てくれたとき、彼女は特別養護老人ホームで務め始めていました。人間関係に難しさはあったものの、その施設で1年ほど頑張って働いたのち、今はカフェで働く傍ら、訪問介護を週に2日ほどしているそうです。それぐらいのバランスの方が今の自分には合っている。そう話す彼女は、たしかに以前に比べると肩の力が抜けてリラックスしているように映りました。ところが、これから先の未来の話をし始めるとやや不安がちに。

 

彼女は青森県の出身で、向こうにはお父さまが経営されていた会社と土地がそのままあるそうです。ご両親はすでに東京に出て来て、定住されていて、お姉さまもこちらでご家庭を持っていらっしゃるとのこと。向こうには誰もいないけれど、場所だけは残っているということです。彼女としては、青森に戻り、その場所を生かして、介護にたずさわる仕事をしてみたい。自分の理念を持って、貫けるような施設や事業所をやってみたいという願いがあります。しかし、理想はあっても、いざ青森に帰って、介護の事業を立ち上げるとなると、ずいぶん高いハードルがあるように感じ、立ち尽くしてしまうのです。

 

彼女は現実と理想のあいだで思い悩んでいることを、ただ聞いてもらいたかったのだと思います。何か具体的なアドバイスができるわけではありませんし、私もただただ彼女の想いに共感することしかできません。ひとしきり話してくれて、彼女は帰っていきました。

 

彼女のような人たちが、これからの介護の世界を盛り上げていってほしいと思います。このような介護をしたいという強い想いを持った人たちが、自分の理想や理念を掲げ、仲間を集めて、自分たちの力で介護サービスを提供する。他の業界と比べると、それほど大きな資金がなくても立ち上げられますから、自分でやりたいと思う人たちはどんどんやるべきです。もちろん大きな施設にも役割はありますが、これからは小さな施設・事業所が数多くできて、身の回りの人たちを支えていくことが重要になります。

 

 

そのような人たちにアドバイスをさせてもらうとすれば、今のうちに目の前の仕事を全力でやってみてもらいたいということです。片手間でやっている仕事が自分のものになることはありませんし、本当にその仕事を自分がやりたいかどうかを知るには一生懸命にやってみなければ分からないのです。宝石は磨いてみないと、それが宝石であるかどうかは分からないのと同じです。全力でやる、一生懸命にやるとは、具体的には1日びっしり15時間ぐらい、3年間はやるということです。その仕事が好きで、楽しさや喜びが見いだせなければ続かないはずです。もしそれができたなら、どんな場所であっても、たとえお金がほとんどなくても、あなたの理想を実現し、誰かの役に立つ仕事ができるはずです。