「だれもが愛しいチャンピオン」

今年最後に今年いちばんの映画を観てしまいました。アカデミー賞外国語映画賞を受賞したスペインの映画「だれもが愛しいチャンピオンたち」です。最初からラストまで、とにかく楽しく笑える映画です。登場人物は自閉症やダウン症などの知的障害のある当事者なのですが、湿っぽさも哀しさも全く感じさせない、ユーモアにあふれたコメディ映画といっても良いでしょう。それぞれが個性的で(こういう言い方が陳腐に思えてしまうほど)、誰もが愛しいチャンピオンという表現はまさにピッタリ。ラストシーンのオチには考えさせられましたし、深いところで心を打たれました。新宿や恵比寿、有楽町のミニシアターでしか上映していませんが、ぜひ1人でも多くの人たちに観てもらいたい映画です。

主人公のマルコは、プロバスケットボールチームのコーチを務めてしました。しかし、負けず嫌いと短気で思ったことを口にしてしまう性格が災いし、コーチの職を解雇されてしまいます。やけ酒を飲んで飲酒運転をした上に、パトカーにぶつかってしまい、判事から知的障害者のバスケットボールチーム(アミーゴス)のコーチをするという社会奉仕の活動を命じられました。彼らのことを知恵遅れという偏見を抱きつつ、最初は嫌々、指導をしていたマルコですが、彼らの不思議な距離感や個性、振舞い、そして人間としての温かさに触れ、次第に打ち解けていきます。そして負けず嫌いの性格が吉と出て、アミーゴスをスペインリーグで優勝させようと奮闘するようになったのです。

 

「彼は教えられているんだ」という、チームのキーマンであるロマンの言葉が忘れられません。マルコは知的障害者の彼らにバスケットボールを通して、社会のルールや規律等を教えているように見えて、実は彼らから人との接し方やコミュニケーションの取り方を教えられているという意味です。のちにマルコはスペイン代表チームのコーチにも抜擢されたように、メンバーのやる気を引き出し、それぞれの得意分野を生かし、彼らの気持ちや立場から見て言葉を選んで伝えられるように成長したのです。意図的にそうしたのではなく、彼らと共にベストを尽くそうと頑張った結果として、気がつくと自分が変わっていたのです。私たちは自分とは価値観や抱えている課題が異なる人たちと向き合い、交流することで、お互いに自分が変わることができるのですね。

 

 

ややネタバレになりますが、1番ではなくても良いという考え方は、1番を目指した結果であれば美しいものだと思いました。たしかに、1番でなければならない分野や世界はあって、そこでは2番手以降は意味がないのですが、ほとんどの場合において、私たちは1番でなくても自分も相手も認めなければならないのではないでしょうか。もし1番以外がダメだとするならば、生きている私たちのほとんど全員が意味のない存在になってしまいます。そんな世界は苦しくありませんか。1番を目指して頑張る過程に、喜びや楽しさがあるのであって、最後に結果が出たあとは、勝者も敗者もお互いの頑張りを褒め・認め合うことで世界は救われるのです。