卒業生のTさんが遊びに来てくれました。よほど話したいことがたまっていたのか、マシンガンのように息つく間もなく、今の施設や仕事について語り尽くしてくれました。実は前回来てくれたときは、今のフロアから異動するように言われて、辞めようかどうか迷っているという相談でした。まずは別のフロアに行って頑張ってみて、それでも合わなかったら辞めれば良いのではとアドバイスさせてもらいました。その後、しばらく音沙汰がなかったので、どうなったのかと心配していたところ、何と今はそのフロアのリーダーになったとのこと。予想もしなかった嬉しい展開であり、彼も今行っている業務改善について生き生きと教えてくれました。
彼は今のフロアに異動してから、できるだけ利用者さんにオムツを外して生活してもらおうと考え、数週間かけて自分で排泄のケアに入りながら、利用者さんの排泄の時間を記録していったそうです。そうしてデータを集積してみると、大体決まった時間に排泄があることが分かり、その時間に合わせて(排泄の予定時間よりも少し前に)利用者さんをトイレ誘導することにしたそうです。Aさんは何時何分ごろに、Bさんは何時何分ごろにとそれぞれ排泄の時間帯は異なるのですが、そうすることでオムツを外すことができたばかりか、自分で立ってトイレまで行って排泄する自立支援のケアが少しずつできるようになったそうです。
何と言っても喜んでくれたのは利用者さんでした。それまでは便意をもよおしてもトイレに連れて行ってもらえず、「オムツにして」と言われていましたが、先回りしてトイレに誘導してもらえるので自分の意思と力で排泄を行う、人間らしい生活が戻ってきました。寝たきりにされていた利用者さんが、少しずつ自分で動く(動ける)ようになったりしました。また、オムツをつけっぱなしのフロアと比べて、利用者さんの便の質も変わってきたそうです。看護師さんが、「他のフロアの利用者さんは黒い便ばかりだけど、このフロアの利用者さんはそうではないから不思議だ」とも言っているようです。
排泄のケア以外にも、入浴も入ってもらうタイミングをずらすことで、ひとり当たり時間をかけてゆっくりと入ってもらえるようにもなりました。そうした工夫をすることで、たしかに場合によっては分刻みの仕事になってしまうこともあるけれど、自分たちの都合で一斉にトイレ誘導して、それ以外の時間はオムツにして、余った時間は職員同士でしゃべっていたりするならば、忙しくても構わないと彼は言いました。
彼とは別のフロアに、もうひとり頑張っている卒業生さんがいるそうです。彼も利用者さんがトイレに行きたいと言えば誘導し、起きたいと言われれば起こして、利用者さん本位の介護を提供しようとしているそうです。そんな彼のことを、フロアの主任が「どこの学校で教えてもらってきたのか分からないけれど、自分のやりたいようにやってしまうオリジナリティの部分があるのですよね」とリーダー会議にて発言したそうです。ここで言うオリジナリティとは、独創的という良い意味ではなく、自分勝手というニュアンスです。リーダーとして会議に参加していたTさんは、自分も同じ学校何だけど…と思いつつ、利用者さんのペースに合わせて自立支援をうながすケアをすると、この施設ではオリジナリティがあると暗に揶揄されるのだと驚いたそうです。
私たちはその話をしながら大笑いしました。それほど難しいケアをしているわけではなく、利用者さんのペースに合わせて自立支援をうながす介護をしようとすると、「それでも地球は回っている!」と言ったガリレオ・ガリレイのような扱いを受けて迫害されてしまう現状があるということです。それでもケアカレの卒業生さんが、学校で教えてもらったことを現場でも実行しようとしてくれていることは誇らしく、いつの日かそれがオリジナリティと言われない当たり前のケアになることを願ってやみません。