台風でのひとりごと(村井先生)

ここ最近の災害、とりわけ風水害において、甚大な被害が各地で起きたことは記憶に新しい。

 

梅雨前線と台風の影響から強烈な雨が降ることで、河川の氾濫や浸水、土砂災害がいつのタイミングで起きても不思議ではない。それは西日本であれ、東日本であれ、どこでも起こり得る気象現象である。いつの日か、自分の住む地域も浸水や土砂災害に見舞われるのであろうと考えると、気が気ではない。

 

近年、勢力の強い台風が発生する原因のひとつに、海水温度の上昇が関係していると言われている。しかし、海水温度を下げるような取り組みや生活スタイルに舵を取っているかと問われると、何ひとつしていない。それでいて、梅雨や台風の時期は気が気でないと考えているのである。他国の異常気象による自然災害をメディアで目にする機会も多くなった。日本だけではなく世界的な取り組みが必要なのであろうと考えさせられる。

 

そんな我が国の風水害のニュースを見ていると、「自助」という言葉が多く使われていることに気がついた。「自助」とは、災害による被害を少なくするために備え、個々人が自己の身の安全を守ることを言い、安全対策の手立てを自己で行い、身の安全に取り組むことで、個人単位での防災・減災につなげる考えである。

 

ニュースを見てゆくなかで、「要配慮者利用施設」に入所している高齢者の避難について、「避難する場所」、「避難に要する時間」、「人員の確保」が課題だと報じられていた。水防法では、災害時に手助けが必要な人がいる「要配慮者利用施設」対し、避難計画の作成と訓練実施を義務付けている。国土交通省によると、20193月時点で全国の対象施設67901カ所の施設のうち、避難計画作成済みは36%、訓練実施は13%という結果になっている。つまり、24444カ所の施設が避難計画書を作成し、訓練実施は8827カ所施設ということになる。

 

ここでは、計画書の作成や訓練実施について論じるつもりはない。ただ、手助けが必要な人がいる「要配慮者利用施設」には自力での避難が容易ではない方が数多く入所しているという事実がある。そのような 「要配慮者利用施設」がある地域でひとたび大雨洪水警報が発令された場合、少なからず避難を開始していないと甚大な被害を被ることが予測される。

梅雨前線並びに台風の影響による強烈な雨というのは、地震とは違い、ある程度の予測が可能である。

 

しかし、課題であると言われる「避難する場所」、「避難に要する時間」、「人員の確保」を達成するには以下が必要になるであろう。それは、迫りくる脅威のなかで、安全な場所を確保し、時間を要さずに移動するために人員を投入するのである。皆さんはこれらが可能であると思うだろうか。それが出来ないから報道にあるように課題なのである。そこで、河川の氾濫、浸水、土砂災害が予想された場合、前日避難という方法をとることでこの課題は達成できないだろうか。

 

しかし「明日、台風が上陸するので計画避難を開始します」という施設があるとは考えにくい。仮に前日避難を実施するとなると、施設職員は招集され、総出で上階または近くの避難場所へ移動することになる。場合によっては、台風が過ぎ去るまで利用者に付き添い安全を確保する必要がある。この前日避難は理想的な防災・減災であると言える。しかし、「要配慮者利用施設」だけの自助努力だけでは、マンパワー及び時間、費用と言った負担が大きく現実的ではない。さらに職員の家族の安全を蔑ろにすることはできない。

 

そこで、ひとつ希望を投じたい。高齢者の避難について、入所している高齢者の家族の協力が得られないものだろうか。先ほどの「避難する場所、避難に要する時間、人員の確保」という課題を遂行するには、人的・物的資源が豊富に必要になる。警報発令にともない、避難計画に沿って、避難を施設職員だけで遂行するには課題が多すぎるのである。それは課題ではなく必然ではないだろうか。

 

「共助」という視点で地域の方々の協力を得るという方法もあるが、地域の方々は自己の「自助」で精一杯になるであろうと推察すると、地域の方々の協力は難しい。そこで、入所している家族の協力が得られないものかと考える。家族の負担が増えるという見方が先行するかもしれないが、入所する家族には有益な面が2つある。

 

ひとつは、家族が傍に居てくれることで入所する家族の心の支えになる。

 

もうひとつは、避難に際して移動と付き添いの人員になるのである。

 

可能ならば、水害の及ばない地域に住む家族が、自宅へ一時的に家族を避難するという方法は有効であり有益であると言える。どのような災害においても、迅速な避難には多大な労力と費用が伴う。それを施設ならびに施設職員だけのマンパワーで遂行するには限度がある。大雨洪水警報の発令をもって避難を開始する頃には、公的機関(警察・消防・自衛隊)の協力は得られないものと捉えたほうが無難である。

 

 

近頃、多くなりつつある水害での浸水、土砂災害について、施設のあり方をソフト面から捉え直す必要があるのではないだろうか。個人が自分を守り、家を守り、家族を守ることで、地域や社会が守られてゆくのである。施設に家族が入所しているのであれば、その家族を災害から守ることも家族の役目ではないだろうか。近頃の風水害による被害は甚大で、「自助」と「共助」という言葉以外に「家族」を組み合わせた柔軟な考えと実践が求められているような気がしてならない。

 

(村井)