実務者研修で主に学んでいただく介護過程とは、分かりやすく言うと、介護の考え方です。思考の過程と言い換えても良いと思います。どのような思考過程を辿って、介護を提供するべきかという考え方のこと。そしてその考え方は、介護の仕事だけではなく、どの業種でもどの世界でも使うことのできる、普遍的なものです。情報を集め、情報を解釈・統合化し、何ができるのか、どうすればできるようになるのかを見つけ(アセスメント)、それを元に短期、長期的な目標を立て、実行し、結果を観察して、再度計画を修正していくというプロセスです。文字にすると難しく思えるかもしれませんが、何かを良くしようと思って取り組んでいるときには、誰もが無意識もしくは意識的に辿っている思考過程なのではないでしょうか。それをあえて介護の世界において学問的にしたものが介護過程です。
子どもの教育においても、この考え方は当てはまります。私が塾で教えていたときは、授業が始まる前にスタッフが集まって、一次情報の共有が行われます。「○○くんは●●したいと言っていた」、「親は△△してくださいとおっしゃっていました」など、本人や親の要望を集めてみたり、生徒さんの教科ごとの点数や成績の伸び具合、また本人の意欲や性格等をスタッフ全員で共有しつつ、その情報の背景や裏にある心理などを読み取り、解釈し、話し合いをします。最初は好き勝手なことを言い合うのですが、最終的にはリーダーが情報や解釈を集約し、何ができるのか、どうすればできるようになるのかを見つけ、適切な短期、長期目標を掲げ、具体的な行動へとつなげていきます。
こうしてくださいと指示をすることもあれば、スタッフのこうしたいという考えにゴーサインを出すこともあります。いずれにしても、正しい思考過程を経て出た結論を具体的な行動として試してみるということです。もし上手く行かなかった場合は、再度1から考え直せばよいのです。このようなプロセスを仕事の一環として毎日繰り返すことで、その精度も高まってくるのです。
介護福祉士を目指すための実務者研修において、介護過程が課せられたということは、介護の業界においての現状として、介護過程が大きな課題ということでしょう。介護の現場では全くと言ってよいほど、介護過程が展開されていないという危惧があるのだと思います。目の前にある仕事を手当たり次第にこなしていくばかりで、そこにはプロセスがないということです。情報はあったとしても、それがバラバラになっていたり、共有されていなかったり、上手く解釈されていなかったりするのかもしれません。
そして、向かっている方向が間違ってしまっていると、日々の行動もおかしなことになってしまい、やればやるだけお互いに疲弊していき、誰も望まない結果が出てしまう。それは介護過程の欠如ゆえなのです。間違った方向への努力は、意味がないどころか、ときとして有害にもなりえます。介護福祉士になる前に、介護過程を学ぶことで日々の仕事を見つめ直してみましょう、というのが実務者研修のコンセプトのひとつなのです。
考え方ひとつで 、現場は少しずつ変わって行くと私は思います。逆に言うと考え方が間違ってしまうと、現場は少しずつ悪くなって行きます。考え方に正しいも間違っているもないと反論される方もいるかもしれませんが、私の経験上、正しい方向も正しい考え方も存在します。正しいビジョンがすぐに実行され、実現するとは思いませんが、それでも情報を集め、情報を解釈・統合化し、何ができるのか、どうすればできるようになるのかを見つけ(アセスメント)、それを元に短期、長期的な目標を立て、実行して、結果を観察して、再度計画を修正していくというプロセスを日々、コツコツと行っていくことで、介護の現場も少しずつ大きく変わっていくのだと私は信じています。