「人生、ここにあり!」

最近、Amazonプライムで映画を観るのにハマっています。良い映画を観ると、また次も観たくなって、その映画も面白いとまた次もと連鎖していく。「人生、ここにあり!」もその流れの中で見つけて観た映画であり、最高に素晴らしかったです。1980年代のイタリア、精神障害者の就労施設を舞台にして起こった運動を、実話に基づいてユーモラスに、人間味あふれるタッチで描いています。薬漬けにされ、施設に隔離され、決められた仕事をやらされていた精神障害のある人たちが、左遷されて来たある人物の登場をきっかけに、自分たちの手で社会に飛び出すことになります。ネタバレになるのでこれ以上は述べませんが、ちょっとした偶然が重なって、社会は少しずつ変わっていくのだなと感じました。精神障害や就労支援に興味があって学びたいと思っている方は、ぜひご覧になってみてください。

原題は「Si può fare(やればできる)」。学習塾の安っぽい宣伝文句のようですが(笑)、この言葉がこれほど当てはまる映画もないでしょう。あの時代に精神障害者が精神病院から社会に出ていくなんて、まさに無謀と思われていたでしょうし、狂気の沙汰だと非難した人たちも多かったはずです。それでもやればできると信じる者がいたからこそ、その過程には数々の悲しみや苦悩もあったはずですが、実際には何とかなったということです。

 

 

実際にイタリアには今、精神病院がありません。かつてはマニュコミオと呼ばれた巨大な精神病院が数多く存在していましたが、人間を「隔離」するシステムは人権や尊厳の問題と深く関わりがあることは明らかであり、イタリアはいち早く「共生」へと舵を切ったのです。もちろん、社会保障費といったお金の問題もあったのかもしれませんが、それは鶏と卵の問題であって、どう考えても人間を1か所に「隔離」しておくことは人権と尊厳の侵害であり、誰にもそうする権利はない以上、私たちに残された選択肢は「共生」しかないはずです。1998年にイタリアからは精神病院がなくなりました。

「共生」と言っても決して野放しにするということではなく、精神科医のフランコ・バザーリアが唱えたのは、「右手で病院を解体し、左手で地域ケアをつくる」と言われる改革でした。もちろん医療的なケアだけでは不十分であり、社会に出るということは、統合失調症を抱える人たちが自分たちで稼ぎ、自分の部屋で暮らし、周囲の人たちと人間関係を構築するということです。そのためには自分たちの仕事を持って、経済的に自立することが鍵となり、この映画はそのあたりを実に上手く描いています。彼ら彼女たちの「強み」や「得意とすること」を生かして仕事をするのです。もちろん、彼ら彼女たちが地域で生活することで起こる現実からも目を背けていないことも称賛に値する作品です。

最後に、ご存じのとおり、日本は世界一、精神病院の病床数が多い国です。世界の精神病床約185万床のうち約35万床が日本にあり、世界の精神病床の5分の1が日本にあるということです。これを日本が豊かであるからと見るか、人権意識に欠けていると見るかはそれぞれですが、私は何かが決定的にずれてしまっていると考えています。新型コロナウイルスの患者は、日本全体の病床数のわずか2%しか受け入れておらず、医療崩壊だと騒いでいる一方で、精神疾患の人たちを隔離するための病床数はごまんとあるのです。日本の病院は民間がほとんどですから仕方ないと考えるべきかもしれませんが、つまりはお金にならないことはやらず、自分たちの保身や責任逃れのためなら何でもするということですね。そういう実情を知らない人たちは、ぜひこの映画を観て、教養を深め、視野を広げてもらいたいと願っています。