今年、介護福祉士に合格したTくんが、ふらりと遊びに来てくれました。彼はいつも決まってふらりとやってきます。初任者研修を申し込んだときも、仕事探しの相談に来たときも、そして今回も。同行援護と知的障害者ガイドヘルパー養成研修のパンフレットをもらいに、ふらりとやって来ました。しかも、なぜかたまたま事務所に誰かがいるのですから不思議。ふらりとやってきて、現状をマシンガントークで話して、帰っていきます。今回は、新しい職場を求めて板橋区に引っ越すことになった話、さらにこれからは個浴を施設等に導入する活動をしたいという理想と情熱を語ってくれました。
彼は湘南ケアカレッジの介護職員初任者研修を卒業したのち、とある施設に就職しました。見学に行ったいくつかの施設の中から、自分で選んだ施設です。介護職員初任者研修に通っていた当時のTくんを覚えている先生方は分かると思いますが、ぼんやりして、素朴ながらも変わったところのある青年でしたので、正直に言うと、意識の高い施設にいきなり入って大丈夫なのか、と心配したものです。
当時、その施設はまだオープンしたばかりでした。「介護を変える、自分たちで作り上げる新しい施設。普通の介護職が普通の介護をしたらあたりまえの生活」、『食事、排泄、入浴』の3つのあたりまえの生活を大切にする」という理念を掲げ、個浴などを実践しようとしていました。もちろん、介護スタッフには一人ひとりの利用者さんたちに対応し、浴槽に入浴してもらう介護技術が求められます。スタッフにも求めるものが多いため、その施設に合う・合わないは分かれます。介護技術や理念を体得したいと思う人にとっては良い施設ですが、もう少しのんびりと働きたいと思う人にとっては別の施設の方が合っているはずです。
Tくんへの僕の心配は杞憂に終わり、3年間勤めてリーダーとなり、介護福祉士に今年合格しました。これを機に、彼は新天地を求めることにしたそうです。東京都内であればどこでも良かったと彼は言いますが、その地域に根ざしつつ、個浴を広めていきたいと思ったそうです。いきなり広めると言っても難しいので、まずは入職して働きつつ、その施設に個浴を浸透させ、そこから人脈を作って、周りの施設等に個浴を広めていくつもりとのこと。その施設で個浴を実践してみて、利用者さんたちの喜ぶ姿を見て、それが普通の介護であり当たり前の生活であると、心から感じたからだそうです。また、自分も伝える活動をしてみたいと思ったそうです。
その話を聞いて、面白いと素直に感じましたし、心意気が素晴らしいと思いました。できっこないと言う人もいるかもしれませんが、彼はまだ若いので、時間をかけて取り組めば実現できるのではないかと僕は思います。それにしても、あの頼りなかったTくんが、介護福祉士を取り、個浴を広める活動をしたいと思うなんて驚きです。いつの日か、ケアカレナイトに彼をお呼びして、個浴の素晴らしさとそれにまつわる介護技術を教えてもらう日が来ると良いですね。今は夢物語かもしれませんが、10年後、生徒さんたちが私たちを飛び越えて、介護の世界を変えていってくれている未来が来ることを願っています。