祝辞

皆さん、入職おめでとうございます!ようこそ、素晴らしき介護の世界へ。

 

 

皆さんがこうして介護の世界に入ってこられたのは、それぞれに何らかの理由があると思います。正直に言うと、私は介護の世界に入ったのはたまたまでしたし、何の理由もありませんでした。仕事がなくてふらふらしていたら、友人からベッドを運ぶアルバイトしないと誘われて、手伝っていたら、そこの学校の偉い人から「村山くん、うちで働かない?」と声をかけられて、他にすることもなかったので入りました。入ってみたら、介護の学校だったのです。

入ってから、今は介護職員初任者研修と呼ばれていますが、当時ホームヘルパー2級講座と呼ばれていた研修を受けました。とても楽しかったです。小中高校では教えてくれなかったことをたくさん学んで、介護の世界が面白いと思うようになりました。興味がわきました。それからずっと介護の教育にたずさわっています。

 

思い出してみると、私は小さい頃、ひいばあちゃん子でした。私の田舎は岡山なのですが、年末年始や夏休みに帰省すると、真っ先にひいばあちゃんの部屋に行って「帰ったよ!」と挨拶をしました。とても喜んでくれました。ひいばあちゃんは目が見えなかったので、「ター坊、大きくなったなあ」と言いながら、私の顔をこうして触るのです。くすぐったくて仕方なくて、じっと我慢しましたが、何か嬉しかったですね。そしてしわしわの手を握りながら話しました。戦時中の話とか。女学生のとき、竹やりで爆弾を落とす訓練をした時の話なんかは、もう100回以上聞いたのでよく覚えています。

 

ひいばあちゃんは、私が物心ついたころからもうほぼ寝たきりで、1日の大半をラジオを聞いて過ごしていました。食事のときだけは、起きて、リビングまで一緒に歩いて連れてきて皆で食事をしました。私はひいばあちゃんを連れてくる係でした。たまに躓いたりするので、両手を引いて、私は後ろ向きに歩きました。ゆっくりゆっくり歩くのです。

 

ひいばあちゃんはお小遣いをくれたり、昔話を聞かせてくれたりして、私は外で遊びたい盛りでしたが、ひいばあちゃんといる時間も大好きでした。優しすぎるぐらいに優しいひいばあちゃんでしたが、ある日、一緒に寝ることになって、私はいたずらをしたくなりました。

 

寝ているひいばあちゃんの足の指の間にティッシュを入れていくのです。ひとつ、ふたつ、みっつと入れていくうちに、ひいばあちゃんは気づかずに寝ていて、私はおかしくて仕方ありませんでした。ところが、突然、「こらっ!いいかげんにしなさい!」ひいばあちゃんが怒ったのです。私はまさかひいばあちゃんが怒るとは思わなくて、驚いて、そのまま寝たふりをしましたが、心臓がバクバクしてなかなか寝られませんでした。子どものイタズラなので、ひいばあちゃんも本気で怒ったのではないと思いますが、心が痛かったですね。あとにも先にもひいばあちゃんから怒られて唯一の思い出です。ひいばあちゃんは97歳まで生きました。今でもひいばあちゃんのぷよぷよのほっぺが思い出されます。

 

 

何が言いたかったかとうと、私は何の理由もなくたまたま介護の世界に入ったと思っていたのですが、実はひいおばあちゃんとの楽しい思い出があったのです。私がひいばあちゃんにしていたことは、今思えば、介護といえば介護の一部でした。皆さんも同じだと思います。今思い当たる人もいれば、思い当たらない人もいるかもしれませんが、絶対に何らかの理由があってここにいるはずです。もし思い当たる人はその理由を大切にしてください。思い当たらない人は仕事をとおして、その理由を見つけてください。その理由は皆さんが困ったときや道に迷ったときに必ず救ってくれるはずです。頑張ってください!

 

★株式会社リープス様の入社式で話した祝辞を文字起こししました。この春から介護の仕事を始める方々に送ります。