
かなり前にブログで書いたつもりでしたが、探しても出てきませんので、10年ぶりぐらいにもう一度、訪問介護の実習の思い出話をさせてください。私がホームヘルパー2級講座を受けたのは今から25年ぐらい前のこと。通学日数こそ8日間でしたが、実習が4日間ありました。特別養護老人ホームや老健などの施設実習が2日間、デイサービスが1日間、そして訪問介護が1日間です。3種類の介護サービスを全て体験し、その中から自分に合った働き方を選んで就職することができたのです。
施設とデイサービスの実習は、あまり記憶に残っていません。どこに行って何をしたのか、四半世紀も前のことですから当然かもしれませんが、まったく覚えていないのです。ところが、訪問介護の実習だけは、今でも鮮明に思い出すことができます。訪問介護の実習として、ヘルパーさんに同行させてもらって2軒のお宅に伺いました。そのうちの1軒は生活保護を受けている男性のご自宅でした。
居室に上がらせてもらい、世間話をしながら何気なく床を見ると、何かが動いているではないですか。ノミ?シラミ?ウジ虫?昆虫に詳しくない私には識別できませんでしたが、とにかく見たことのない虫が大量発生していたのです。さすがにギョッとしましたが、そこは僕もヘルパーの資格を取ろうとしている人間ですから、つとめて冷静を装いました。
「それじゃあ、掃除から始めますね」とヘルパーさんは何事もないかのように明るい声を発し、我に返った私はほうきで虫とゴミを掃きながら綺麗にしていきました。その他、私にできることは限られているので、ヘルパーさんがテキパキと料理をつくったりしている間、私はその男性の利用者さんとコミュニケーションを取りつつ楽しく過ごしました。

サービスが終わり、私たちが帰ろうとすると、彼が「これあげるよ」と言って、メロンパンを私に手渡そうとしました。ホームヘルパー2級講座の中で、利用者さんから何かをいただいてはいけないと教えてもらったことを覚えていたので、丁重に断ろうとしたのですが、彼の真剣なまなざしと気持ちを考えるとできませんでした。おそらくこのメロンパンは彼にとっては1食分にあたるメロンパンであり、ただのメロンパンではない。それでも、楽しいひと時を過ごせたお礼として何かをプレゼントしたいと思ったとき、これしかなかったのではないでしょうか。そんな大切な意味の込められたメロンパンを私は断れなかったのです。「ありがとうございます!」と言って私はメロンパンを受け取りました。帰り道にあった公園のベンチに座り、ヘルパー失格だなと思いながら、メロンパンを食べた記憶があります。
今から思えば、実習生と利用者の間における好意のやり取りとして、メロンパンを受け取っておいて良かった、むしろ杓子定規に断っていたらあとで後悔していたかもしれませんし、利用者さんの気持ちも満たされなかったかもしれません。たった1軒の実習でしたが、驚きと葛藤に満ちていて、訪問介護って面白そう!と思ったものです。
2013年にヘルパー2級講座から介護職員初任者研修に名称が変更され、それを機に実習がなくなってしまいました。学校の運営的には、実習の手配がないのはとてもありがたいのですが、生徒さん的には現場を知る機会が失われました。特に訪問介護を体験するきっかけが全くないまま介護の世界に入るため、ほとんどの生徒さんたちは施設やデイサービスで働くイメージを持っていて、訪問介護をやろうという人が激減してしまいました。在宅介護に力を入れるという国の方針とは裏腹に、このままだと訪問介護で働く人たちはますます高齢化し、減っていくことでしょう。そんな高齢社会の課題を解決するために、まずは町田市から訪問介護の職場体験をスタートさせたいと考えています。