先日、電気の半分つかない事務所で仕事をしていると、「お久しぶりです」と言いながら訪ねてきた若い男性がいました。どこかで見たことあるなと思いつつ、その顔と身体の大きさのギャップに戸惑いながらいると、「Kです。覚えていますか?」と聞いてきました。やっぱりそうかと思いつつ、お兄さんか弟か分からないので「えー!今何歳になったの?」と尋ねると、「20歳です。あのとき12歳だったんで、8年前ですね」と答えが返ってきました。そうです、彼はK兄弟の弟の方でした。
最初に湘南ケアカレッジの介護職員初任者研修を受講してくれたのはお母さまでした。その翌年に電話がかかってきて、「息子が中2なんですけど、介護職員初任者研修を受けることはできますか?」と聞かれ、「もちろんです。年齢制限はありませんから。本人が受けたいという気持ちがあるかどうかが大切ですね」と回答しました。お母さまは「友人に障害のある子がいたりして、本人も介護の世界に興味があるみたいなので」と言いつつ、夏休みの短期クラスに申し込みをしてくれました。そのときは弟がいることは知りませんでした。お兄さんは介護職員初任者研修を無事に修了した後、何と全身性障害者ガイドヘルパーの資格も取得しています。
翌年、お母さまから再び電話がかかってきました。「下の子が小6で、介護職員初任者研修を受けたいと言っているのですが、大丈夫ですかね?」とおっしゃるので、最初は冗談だと思っていると、「本人が受けたいと言っているので…」と本気のようです。さすがに小学6年生は難しいのではと私は思ってしまいました。なぜなら、ちょうどその頃、私の息子も小学6年生であり、とてもとても彼が大人に混じって介護について15日間も学べるとは思えなかったからです。そこでやんわりと「本人が受けたいという気持ちは尊重するので、まずは今回試しに数日間だけ受けてみて、難しいと感じたならば、来年とか再来年にまた来てくれたら良いのではないでしょうか」としました。
実際に研修が始まると、彼はいちばん前の席に座り、風貌はまだ子どもで体も小さく可愛いのですが、先生の話をちゃんと聞いてメモを取っていました。授業の途中で飽きて騒いでしまったり、教室から出て行ってしまったりしないかと心配していましたが、全くの杞憂に終わりました。通信添削も良くできていましたし、むしろ周りの大人の方が刺激を受け、背筋を伸ばして授業を受けていたのが印象的です。もちろん、彼も小学生なりにできないことがあり、たとえば実技の演習で先生が見せるデモが周りの人たちの背が高くて見えないので、周りの大人のクラスメイトが抱きかかえて持ち上げて見せてくれたりした風景があったのを思い出します。でもそれ以外は大人と同等に、いやそれ以上に良くできて、とても優秀な生徒さんでした。ちなみに、その年の夏休みの自由研究は「認知症について」書いたそうです。
その弟が8年ぶりに姿を現したのです。あのときの丸顔ではなく、お兄さんに似たシュッとした顔になり、身長も50cmほど伸びて、180cm近くに大きく成長していました。私が顔と身体にギャップを感じたのも当然かもしれません。子どもたちはあっという間に大きくなるのですね。8年という歳月の長さも感じます。今は何をしているのかと問うと、「町田調理師専門学校を来年卒業します。飲食店で働き始めようと思っていたのですが、専門学校から声をかけてもらって、先生のサポートをすることになりました」と教えてくれました。先生からサポートをお願いされるぐらい一生懸命に学び、性格的にも良い生徒だったのでしょう。彼の小学6年生時代の受講態度を知っている私は納得しました。帰り際にKくんが「明日から専門学校でお祭りがあるので、良ければお越しください」と言われ、ふたつ返事で行くことにしました。
翌日、ケアカレの裏のすぐ近くにある町田調理師専門学校で行われた「けやき祭」に参加してきました。参加したというよりは、ランチを食べに行ったという表現が正しいかもしれません。受付で参加費として800円を払い、それぞれのクラスがこの日のためにつくった一品を食べ、美味しかったベスト3に投票するという企画です。料理は「秋香るキノコと茄子のミートパイ」、「切り株クラムチャウダー」、「秋の実りバロティーヌ」、「鮭と秋野菜のみぞれ煮」、「秋刀魚ときのこのencroute」の5品でした。ベスト3を選ぶのが難しいほど、どの料理もレベルが高かったのですが、僕が選んだのは「秋香るキノコと茄子のミートパイ」と「秋の実りバロティーヌ」、「秋刀魚ときのこのencroute」でした。特にミートパイとバロティーヌは絶品でした。結局、当日にKくんに会うことは叶いませんでした。ケアカレに来たときに写真を撮っておけば良かったと後悔しましたが後の祭り。
あっという間に時は経ち、大人たちは老いて行く中、子どもたちは成長を遂げるのですね。それは悲しくも喜ばしい、時代のサイクルです。倒木更新。大きな古い木が朽ちて倒れることで、光が差し込み、新しい木が芽生えることを意味します。私たちは教育にたずさわる者として、倒木更新、いつかバトンを渡すことを意識しなければならないのでしょうね。
