廃用身とは、麻痺などにより、回復の見込みがない手足のこと。
という説明から映画はスタートします。廃用身を切断するAケアを施され、心も体も身軽になっていく高齢者たちの実例が、実に冷静に段階的に描かれていきます。映画を観る前は現実離れした設定の猟奇的なフィクションかと思っていましたが、その真逆でした。
映画内にほとんど音楽が使用されないことも効果的で、Aケアを勧める漆原院長は理性的で現実的であることが伝わってくるのです。どちらかというと、利用者やデイサービスのスタッフ、そして出版を勧める編集者の方がAケアに対して熱狂的に傾倒してゆきます。その分の手のひら返しも圧巻ですが、そのあたりも現実的です。
あまり結論づけすぎない終わり方も良く、判断を観客に委ねるつくり方も見事でした。染谷将太だけではなく、周りを固める北村有起哉(ちなみに僕の高校の同級生です笑)、六平直政らの役者さんたちの演技も素晴らしく、本年の今まで観た中では1番の映画でした。
あらすじ
ある町のデイケア「異人坂クリニック」に通うお年寄りの間で、漆原院長(染谷将太)が考案した“画期的な”治療が密かに広まっている。究極のコスパの良い介護を目指すその医療行為は、<廃用身」>(麻痺などにより、回復見込みがない手足のこと)をめぐる、従来の常識を覆すものだという。その結果、「身体も心も軽くなった」、「厳しい性格が柔らかくなった」などと予想外の“好ましい副作用”が現れたという。噂を聞きつけた編集者・矢倉は、老齢期医療に革命を起こす可能性を感じ取り、漆原に本の出版を持ちかける。しかしやがて、デイケアに関するとある内部告発が週刊誌に流出。さらに、患者宅で起きた衝撃の事件をきっかけに、すべてが暗転していくーー。(映画「廃用身」公式サイトより)
映画の中で提供されている情報だけで解釈すると、Aケアには効果(メリット)が多いと感じられます。デメリットとしては、辞めて行ったデイケアの職員の「何か怖い」という気持ちぐらいしか挙げられていません。たとえ冷たく重く、回復の見込みがない手肢であっても、切断してしまうことにより、人間の姿として違和感があることは感覚的に理解できます。可哀そう、気持ち悪い、恐ろしいなど、私たちは人間としての原型を知っているからこそ、言い表しようのない違和感を覚えるのでしょう。映画の中に比喩的に出てくる羽をもがれた蝶の話がまさにそれです。知らなければ新種の昆虫かと思っていたのに、それが蝶だと知ってからは残酷だと感じるようになるのです。
この映画のテーマは、高齢者がそこまでして生きていくべきなのかということです。安楽死の問題提起と言ってもよいでしょう。手足を切断して、蓑虫のような姿になっても、生きたいのか。それは各個人が決めれば良いことだと私は思います。周りの目や周囲の人がどう言ったかではなく、自分で考えて判断するべきです。戦地から戻ってきて手肢がなくても普通に生きている人はいます。病気や事故で手肢を失ってしまっても、日常生活を送っている人もたくさんいます。自分を含めて周りの人たちが姿かたちに違和感を覚えるのは最初だけです。それでも生きたいと思う家族や社会、人間関係が周りにあることが理想ですね。
