あなたがそれをつくれば、彼はやってくる。

母親に送り迎えをしてもらっていた息子が6歳になり、いつの間にか自分の足で小学校に通うようになりました。ふと気がつくと、私ももうすぐ40歳を目の前にしています。40にして惑わずなんて言った偉人がいますが、どうして惑わずにいられましょうか。20代からあっという間に30代になったように、40代も風のように去来するのだと思うのですが、やはり40歳というのはどこか特別な響きがあります。

 

「ある朝、目が覚めて、ふと耳を澄ませると、何処か遠くから太鼓の音が聞こえてきた。ずっと遠くの場所から、ずっと遠くの時間から、その太鼓の音はひびいてきた。とても微かに。そしてその音を聞いているうちに、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ。

 

四十歳というのはひとつの大きな転換点であって、それは何かを取り、何かをあとに置いていくことなのだ、と。そして、その精神的な組み換えが終わってしまったあとでは、好むと好まざるとにかかわらず、もうあともどりはできない。それは前にしか進まない歯車なのだ。僕は漠然とそう感じていた。

 

だからこそそうなるまえに、――僕の中で精神的な組み換えが行われてしまう前に――、何かひとつ仕事をして残しておきたかった」
(「遠い太鼓」 村上春樹)

村上春樹さんのように、ある朝、目が覚めて、ふと耳を澄ませると、というわけではありませんでしたが、私にもいつからか、遠くから太鼓の音が聞こえてきました。私が初めて福祉教育を学んだときのあの楽しさと驚きと感動を、ひとりでも多くの人に届けたい。今の時代を生きる大人にとって、最も大切で必要な教育は介護・福祉の教育なのではないか。大阪福祉総合スクールを立ち上げた友人の姿を見て、私も学校をつくりたい、そう思うようになりました。

 

私が野球少年だった頃、大好きだった、「フィールドオブドリームス」という昔の映画があります。ある日、どこからともなく聞こえた「If you build it, he will come.(もしあなたがそれをつくれば、彼はやってくる)」という言葉に導かれるように、自分のトウモロコシ畑の真ん中に野球場を作ってしまった男(レイ・キンセラ36歳)の話です。

 

私が小さかった頃は、野球場を作ってしまうという発想が面白かったのですが、今となっては、レイがその言葉を信じた気持ちなんとなく分かります。他人から見ればバカげた話に映るかもしれませんし、気が狂ったのかと思われるかもしれません。家族や友人からの反対にあうかもしれません。それでも、野球場を作ることでしか始まらない何かがあり、それは彼にとっては使命のようなものだったのです。

 

明後日から、湘南ケアカレッジにとって初めての「介護職員初任者研修」がスタートします。最高の福祉教育を提供したいと思い、学校をつくったら、素晴らしい先生方が集まり、たくさんの生徒さんたちが門を叩いてくれました。私もこれから40歳を迎えるにあたって、やりたいを超えて、やらなければならない使命を感じて生きていきたいと思います。WANTではなくMUSTへ。さあ、もうすぐ太鼓の音がすぐそこで鳴り響こうとしています。