「生命学をひらく」 森岡正博著

なぜかふとこの本が読みたくなり、本棚の奥から取り出してきました。森岡正博氏によって、自分と向き合うためのいのちの思想について語られた、とても読みやすい講演集。全編にわたって素晴らしい論が展開されています。特に、介護や医療に携わる私たちにとっては、第1章の「いのちのとらえ方」は心に響くはずです。これからの福祉社会を担ってゆく人たちに聴いてほしいと、死に向かう人たちの心とどう向き合うか、森岡氏が力を込めて語った内容です。

森岡氏は私たちにこう問いかけます。真っ暗な夜に患者さんのベッドのそばに行って、もうすぐ死ぬと分かっている患者さんから、「自分はどうなるんでしょう」と言われたとき、あなたたちならどうしますかと。医療がかなり発達した現代、最後には死に直面した患者さんの心の問題がごそっと残るのです。そして、今のところ、お医者さんも看護師さんも、きちんと答えられないのが普通です。なぜかというと、そういうことは教えられていないから。でも、一旦現場に出れば、まずその問題にぶつかります。

ではどうすればいいのか。森岡氏は、あなたたちの人生の中で学んでいくべきものだと結論づけます。重い病気や障害、死や老いに苦しんでいる人たちが、心の底から声を出して訴えてきたときにどうするか、という問題は教科書で学べることじゃないと。


私も四十数年生きてきて、人の気持ちや訴えかけを昔よりは分かるようになってきて、さていつわかるようになったんだろうと、いましみじみ思う。それは自分が、大事な人との関係がめちゃくちゃになって、自分も巻き込まれてどうしようもなくなって、もう逃げ出したいと思って、でもなんとか時間をかけてすり抜けたとき、身につけたと思う。

夜中に「どうなるんでしょうか」と問うた人も、正解を求めているわけじゃないと思う。正解ではなくて、あなたはどう感じてきたの、どう考えようとしているの、と聞きたいのではないかと思うのです。本に書いてあることではなくて、あなたがそれまで生きてきて、いろいろな人を見てきて、いろいろな人の死に方を見て、感じたり考えたりしてきて、そしてこんなふうに私は思うんですよ、と言えるようになるかどうかが問われる時代になると思います。


 

介護職員初任者研修においても、「死に向かう人のこころとからだ、終末期介護」という科目の中で、人の死と向き合います。私たちが看取りについて考えるとき、最終的には、自分の死について向き合うに至ります。だからこそ、介護者としてもぶつかることになるその問題は、誰にとっても正解のない問題であり、それぞれに正解が違うと言うこともできます。テキストには書いていないのです。森岡氏の言うように、それまで生きてきた全人生をかけて向き合うべきであり、たとえ若い人であっても、そのとき、その人なりに導き出さなければならないということです。