温もりのある介護を

介護の場面における利用者と介護者の距離は、45cm~120cmが多いと言われます。手を伸ばした距離の前後、つまり、お互いに手を伸ばせば届くぐらいの距離で接しているということです。身体的な介護が必要な場合は、それよりもさらに接近することもあります。そう考えると、介護における距離感は、私たちが普段の生活を送る上でのそれよりも少し近く、日ごろからの信頼関係やコミュニケーションがより大切になってくるのです。人と人の距離感が近い仕事と言うことができるのではないでしょうか。

人と人との距離感でいつも思い出してしまうのは、サモアという国のことです。私がサモアに行ったわけではなく、サモアに旅行で行ったことのある知り合いの話です。その方は、旅行中、バスでサモアの都市間を移動しました。サモアのバスは窓にガラスが入っておらず、まるでオープンカーのようで風が心地よいのですが、交通手段が限られているせいもあり、常に乗客で一杯になるそうです。最初はあった座席が次第になくなっていき、少しずつ立つ乗客が増えてきます。そして、もう立錐の余地もなくなったときに、あっと驚くことが起こったのです。

 

大柄な中年の男性が、隣に座っている高校生ぐらいの女性の肩を軽く叩き、女性と合図を交わしたと思った途端、その男性がひょいっと女性を自分の膝の上に乗せたのでした。そうすることで、女性の座っていた座席が空き、もう1人が座ることができたのでした。日本だとギュウギュウに押し込められて、座っている人は楽々の傍らで立っている乗客は息も絶え絶えということになりますが、サモアではあちこちでこういった光景が見られるそうです。その方は驚かされたと同時に、サモアの人々の距離感にとても親近感を覚えたと言います。

 

知らない人が膝の上に乗るなんて、日本では考えられない行為ですが、サモアの人にとっては、それほど気にすることではないのでしょう。国や民族によって人と人との距離感が異なってくるのは当然としても、サモアの人と比べてしまうと、私たち日本人の距離感のあり方は行き過ぎているのかもしれないと思わせられます。欧米の人々があいさつとしてハグし合ったり、親子でも抱きしめ合ったりするのを見ても、日本という国は人と人との触れ合いや温もりを感じられない冷えた社会なのではないかと残念に思います。

 

ちなみに、サモアのバスは前から乗るのですが、若い人たちは途中であってもお年寄りが乗ってくると、後ろの席に移るそうです。ですので、自然と後ろの方に若者たちが座り、乗りやすい降りやすい前の方にお年寄りが座るという年功序列ができあがるのです。お年寄りが尊敬されて、大切にされている社会でもあるそうです。介護とは人生の最後の時間を共に過ごすことでもあります。そのとき、冷えた身体ではなく、触れ合いや温かみを感じてもらえるような介護をしたいですよね。