転ばぬ先の杖の先の話

今回は杖について書きたいたいと思います。「介護職員初任者研修」の中に、「移動・移乗に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護」、つまり、利用者様の移動に関する技術や知識を学ぶ内容の授業があります。その中で、杖を使って歩いてみるという体験をします。片麻痺がある設定で階段を歩いてみたり、白杖を使って視覚障害のある利用者様の体験をしてみたり。自らが体験をすることで、どれだけ大変で不安か身をもって理解することができます。そして、そこからどのように介護していくかを学んでいくのです。

 

移動の授業の翌日、ある生徒さんが、「こんなものがあったので買ってきたんですけど、湘南ケアカレッジで使ってください」と杖のゴム先を渡してくれました。移動の授業が終わった後に、町田駅近くにある東急ハンズに行って、杖のコーナーに足を運んだそうです。今はたくさんの形状やカラフルな杖がありますので、手に触りながら見ていると、店員さんが声を掛けてきました。今日ちょうど介護の勉強をしてきたことを話すと、店員さんも気を許してくれたのか、自分が使っている杖の話をしてくれたそうです。

 

その店員さんは、かなり大柄な方であり、それゆえに膝に負担が掛かり、杖なしで歩くことが困難になってしまったとのこと。お店で働いているときも、杖を使って歩いているので大変そうですが、こと杖のアドバイスという点においては、この店員さんは相応しい人物ということですね。それはさておき、店員さんが使っている杖を見せてくれたときに、ゴム先の違いにその生徒さんは気づきました。湘南ケアカレッジの授業で見た杖のゴム先と、その店員さんの使っている杖のそれがわずかに違ったのです。

普通の杖のゴム先

窪みがあって、そこから曲がるタイプのゴム先

 

湘南ケアカレッジで使った杖は普通のゴム先が付いていましたが、東急ハンズの店員さんが使っていた杖のゴム先は窪みがあって、そこで曲がるようになっていたのです。そのことを店員さんに尋ねると、自分にとっては、こちらのゴム先の方が歩きやすいとのこと。彼女の体重を支えるためには、このようにゴム先が曲がることで衝撃を吸収する杖が必要とのことです。その杖を体験させてもらい、たしかに手に伝わってくる感触の違いがあったそうです。

 

反対に、普通のゴム先に比べて、曲がるゴム先の杖は衝撃を吸収するというメリットはありますが、下が柔らかいところや凸凹しているところだと安定しないというデメリットもあります。たとえば砂地や凸凹道を歩くときには、ゴム先が曲がってしまうと不安定でかえって危なく、普通のゴム先の方が安心して使えます。東急ハンズの床ように平らな場所であれば、ゴム先が曲がっても安定して歩けるはずです。わずかなゴム先の違いで、同じT字杖の使い道がこんなにも変わってしまうとは驚きですね。

 

今、湘南ケアカレッジにある6本のT字杖のうち1本だけ、ゴム先が曲がるタイプのものになっています。これからの生徒さんたちのためを思って、かつての生徒さん(今はもう卒業生)が買ってきてくれたゴム先を大切にしたいと思います。