絵本版「象の背中」ー旅立つ日ー

AKB48のプロデューサーとして有名な秋元康さんによって書かれた小説の絵本版です。小説は大人向けの内容ですが、絵本はもちろん子ども向けに編集してあります。ある日、象の父親は神様に「命に終わりがくる日」を告げられます。そして、あっという間にその日はきてしまい、空の上から家族を見守り、感謝の気持ちを綴るというお話です。親を病気等で亡くした子どもへの緩和ケアやグリーフケアの一環として、この絵本を読み聞かせることもあるらしいですね。

 

緩和ケアとは、体と心の痛みを和らげ、生活やその人らしさを大切にする考え方です現在のところガン治療においてよく用いられますが、これから先は、介護の分野でも広く知られ、用いられることになるでしょう。

 

WHO(世界保健機関)による定義としては、

 

「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである」

 

とされています。

 

よく誤解されるのは、緩和ケアはガンの末期や終末期に行われるというものであったり、ガンを患った本人にのみ向けられるということです。そうではなく、ガンに対する医療的な治療と並行して緩和ケアを行い、その経過の状況に応じて割合を変えてゆくのです。そして、緩和ケアは患者本人だけの問題ではなく、患者を支える家族に対しても必要なアプローチなのです。もちろん、その中には、状況を正確には把握できないであろう幼い子供たちも含まれます。4歳を過ぎた子どもには、たとえば絵本という形をとっても、親の病気や死についてきちんと伝えたほうが良いそうです。

 

この絵本「象の背中」は、まず絵が美しいことが素晴らしいと思います。内容が内容であり、絵本における絵の影響力を考えても、最も難しかったのは絵の選択だったのではないでしょうか。誰が、どんなタッチで、どの場面を描くのか、ひとつ間違うと大きく心象風景が変わってしまったはずです。それらを見事にクリアして、実にシンプルに仕上がっています。死が辛く悲しいのは、愛する人たちにもう2度と会えなくなってしまうから、人は死んでも心の中で生き続ける、そして心のどこかであなたをずっと見守っている、という本質的なメッセージが土台にあって、子どもたちにもしっかりと伝わるのだと思います。