非言語的コミュニケーション

コミュニケーションには言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションがあります。その中でも、私たちのコミュニケーションにおけるほとんどを占めるのは後者、つまり言葉ではない、身振りや手振り、態度、しぐさ、アイコンタクトなどによる非言語的コミュニケーションです。「介護職員初任者研修」で医学の分野を教えてくれている看護師の藤田先生は、コミュニケーションの専門家でもあり、授業の中でボールを使いながら、非言語的コミュニケーションについて分かりやすく説明してくれます。

 

まずはキャッチボールをすることから始まります。言葉を発することなく、藤田先生と生徒さんとの間でボールを投げて捕るを繰り返します。初めはお互いに相手のことを見ながら、ゆっくりとボールを投げ合います。5往復ぐらいしたときに、藤田先生が相手の生徒さんに「どう思いました?」と聞きます。生徒さんによって色々な答えが返ってきますが、その反応の中でも多いのが「捕りやすかったです」「心が通じ合っているような気がしました」というもの。「そうですよね。取りやすいように投げましたから」と藤田先生は返します。

 

次に、もう1度キャッチボールを始めます。今までのように普通にキャッチボールをするかと思いきや、生徒さんが投げたボールを弾き落とします。相手の生徒さんはアッと驚いた顔をします。そこで藤田先生は、「どういう気持ちがしましたか?」と聞きます。「嫌な気持ちがしました」と生徒さん。「そうですよね、ムカつきましたよね」と先生。

 

さらにまたキャッチボールが始まります。今度は、生徒さんが投げてきたボールを見ることもなく、よけてしまいます。そして、生徒さんに拾ってもらう。また生徒さんに投げてもらい、よける。2、3度繰り返したあと、「どう感じました?」と生徒さんに尋ねます。「さっきよりも嫌な感じがします」、「悲しいです」と答えが返ってきます。「そうですよね、自分の存在が否定された感じがしますよね」と藤田先生。

 

このようにしてボールを使うと、非言語コミュニケーションはより理解しやすいですね。「コミュニケーションで一番やってはいけないのは、私が今やった無視です」と藤田先生は語ります。マザーテレサも「愛の反対は、憎しみではなく無関心です」と言いました。相手の投げたボールを受け取らないこと、よけること、避けること、しばらく横に置いておくことも無視や無関心に当たります。

 

無視したり、無関心であることが最も相手を傷つけると誰もが分かっているはずですが、介護や看護の現場では(特に認知症の人に対して)何気なしに行われてしまっているのではないか。それが藤田先生の伝えたかったことです。相手の投げてくれたボールをきちんと受け取って、相手に取りやすいように返しているのか、私たちはもう一度、自らを振り返ってみるべきですね。