まさか生活保護を題材とした漫画が出るとは思ってもみませんでしたが、読んでみるとかなり面白いです。といっても、決してコミカルではなく、実際の現場の問題に真正面から向き合って描かれています。日本国憲法第25条における、「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という理念に基づいた、日本国民にとっての最後の砦である生活保護とは?そんな重いテーマではありますが、漫画という切り口においては、とても分かりやすく、身近な問題として感じられますね。これからも社会問題提起型の漫画は増えてくると思います。
主人公の義経えみるは、新卒ながらも福祉保健部の生活課に配属されることになります。そこで生活保護を担当することになり、いきなり110世帯分のケースファイルを引き継ぎます。彼ら彼女らの暮らしを見て、ちゃんと生活できているか、何か困っていることはないかを見極め、そしていつの日か自立していくことができるための支援をするのが仕事です。
少しずつ仕事に慣れていきたいところですが、初日からいきなり、大きな衝撃を受けることになります。引き継ぎのためお宅を訪問して帰って来て、ようやく1日が終わろうとしたところ、担当になったひとりの男性から電話が掛かってきます。「これから死にます」。まだ会ったこともない男性からの第一声がそれでした。家族に相談してみると「いつものことですから」とお構いなし。1ケース1ケース全力でやっていたら身が持たないと思い、明日訪問しますと留守電に残して、その日は終業しましたが、翌日、その男性が自ら命を絶ったことを知らされるのです。
あの時、私が見に行っていればと自分を責める主人公に対し、同僚は「1ケース減ってよかったじゃん」と慰めてくれるのですが、その男性宅を訪れて、彼が生活の工夫をして生きていた形跡を見たとき、義経えみるは、たとえ110ケースあっても、国民の血税を受けて生活していても、ひとりの人間の命や生活がそこにあることを知るのです。1ケースという考え方をしてしまうと、何か大切なものを失ってしまうと。そんな事件がきっかけとなり、何も知らない、何もわかっていない自分の中に、「確かなもの」を持ちたいと思うようになるのでした。
それからは、ケースワーカーとして奮闘する日々が続きます。生活保護費のほとんどを、かつての事業でつくった借金を返済することに使ってしまっていることが発覚した男性、母子家庭のためダブルワークを強いられている母親、就労したいと口では言いながらも活動をほとんどしない若者もいます。精神的な病気のため攻撃的になる女性に「あなたなんか、死ね」と言われながらも、いろいろな人のいろいろな人生に向き合い、人生のリアリティを学んでゆくのです。そして読者である私たちも、ついにはケースワーカーとして様々な問題に関わっているような感覚になるから不思議です。次巻以降の展開にも大いに期待します。