折り曲げ厳禁

「修了証明書が折り曲げられてポストに入っていた」と卒業生から聞きました。多少ならば曲げられても良いように、また雨などで濡れても大丈夫なように、クリアファイルに入れて修了証明書を送っているのですが、まさか完全に折り曲げて郵便ポストに入れられてしまうとは…。その卒業生には新しい修了証明書を再発行しましたが、心を込めてつくった、一生ものの修了証明書だけに、今後二度とこのようなことが起こらないようにと思い、折り曲げ厳禁のスタンプを買いました。これからは間違いなく綺麗な修了証明書が届くはずです。


このように実際に起こったことをきっかけとして、少しずつ改善を図っています。世の中は実際に何が起こるか分からないぐらいに複雑ですから、現実の出来事から学ぶことがたくさんあります。まさか郵便局の職員さんが、A4サイズの封筒を、完全に折りたたんだ状態でポストに入れるとは思いも寄りませんでした。たしかに郵便受けの大きさはそれぞれであっても、今まで完全に折り畳まれた状態で私自身に届いたことがなかったので想像できなかったのです。

 

私だけの経験や視点で考えてしまうと、そんなことをする郵便局員はけしからんとなるのですが、それでは何も変わりません。その人を特定して、完全に折り曲げないでくださいと伝えることも現実的ではありませんし、郵便局にクレームをつけたところで事態は同じでしょう。そういうことが起こりうるのだから、自分の考えの世界が狭かったこと認め、どうすれば同じことが起こることを防ぐことができるのかと考える方が得策です。私たちが思っているよりも、世界はもっと複雑で豊かなのです。

 

折り曲げられた修了証明書と同様に、生徒さんから教えられたことのひとつに、湘南ケアカレッジまでの地図があります。あるご高齢の生徒さんは、最初の授業のとき、道に迷ってしまい、電話で案内をして、ようやくたどり着きました。誰にでもあることですし、一度教室まで来られたのだから、次回以降はもう大丈夫だろうと私は考えました。

 

ところが、次の授業でも迷ってしまい、大きく遅刻をして来られました。10分以上遅刻してしまうと欠席扱いになりますので、せっかく来てくださったのに、残念ながら振替の憂き目に。さらにその日は彼を駅まで見送りがてら、道案内をしたにもかかわらず、なんと次の回も教室にたどり着くことができず、帰られてしまったのでした。また当日の朝、町田駅から電話が掛かって来て、迎えに行ったこともありました。

 

何度いらっしゃっても次はまた迷ってしまうことから、彼は(自分ではおっしゃりませんでしたが)おそらく平面の地図を読むことが極端に苦手で、しかもかなりの方向音痴らしいことが分かりました。私の中では、いくら方向音痴で地図を読むのが苦手とはいえ、一度来たら次は大丈夫という認識でしかなかったのです。でも現実の彼は、そうではない人もいるということを教えてくれたのです。それは私の人生経験の足らなさであり、他人に対する想像力の欠如ゆえだと思います。

 

私は彼の気持ちになって、彼になったつもりで考えてみました。そこで出来上がったのが、駅からの写真付きの地図です。もともとは彼のためにつくったものですが、申し込みをしてくださった生徒さんに送ると、「とても分かりやすくて親切だと思いました」と思いのほか喜んでくださいました。

 

折り曲げ厳禁のスタンプや写真付きの地図を見ると、あのときの失敗や思い出が蘇ってきます。そして、まだまだ私の知っている狭い世界や未熟な人生経験では分からないことが、世の中にはたくさんあるのだと思い知らされるのです。その都度、謙虚な気持ちを持って、学んでいくしかありませんね。