あるものでなんとかする

介護の世界には、「あるものでなんとかする」という思想があります。思想なんて言うと大げさかもしれませんが、時代が変われども、変わることなく介護の世界で言い伝えられてきた考え方です。「あるものでなんとかする」とは、今ここにあるものを使って、目的が達せられるように工夫をするということ。たとえば、介護職員初任者研修の中でもお伝えする、割りばしとゴムを使って作る自助具やベッド上での洗髪のためのケリーパッドなども、「あるものでなんとかする」という発想から生まれたものです。

 

私がこの考え方を教えてもらったのは、介護の学校の運営に携わるようになってからのこと。授業の中やふとした会話の端々に、先生方が「あるものでなんとかする」ことの大切さを口々に説き、叩き込んでくれました。たとえば教室に備品が不足してしまったようなときも、「あるものでなんとかする」と言いながら、実際に工夫してなんとかしてしまう先生方の姿を見て、私は素直に感心し、その考え方に自然と共感したのでした。

 

「あるものでなんとかする」の素晴らしいところは、①今あるものに目を向けること、②工夫すること、そして③成し遂げることです。


まず①は自分の周りにある人や物などの環境を見渡し、代わりになりそうなものがないかを探すことから始まります。ここでは観察する力が要求されます。


次に②は今ここにあるものをどのように使っていけば、程度の差こそあれ、目的を達成することができるのかを考える力が問われます。目的に即したあるものをそのまま使うのであれば、頭は使いませんからね。


そして最後に③は、今あるものを実際に使って行動を起こすことです。①~③までが行われて初めて、何らかの目的を達成することができるのです。

 

昔流行った、「モッタイナイ」という考え方とは大きな違いがあることが分かります。「モッタイナイ」は物を大切にしましょう、再利用しましょうという考え方ですが、「あるものでなんとかする」は、今あるものに注目し、工夫し、成し遂げることなのです。「モッタイナイ」がずいぶんと表層的で抽象的であるのに対し、「あるものでなんとかする」は奥行きがあり、具体的な思想だと思います。

 

「あるものでなんとかする」の反対は、「安いものを買う」ことでなのではないかと思います。安いものを買うと、なんだか得したような気持ちになりますが、本来は必要のない物を買ったり、使えるはずの今あるものを使わなくなってしまいます。そして何よりも、安いものを買うということは、それを安く作る(もしくは売る)ために、誰かがどこかで泣いているということでもあります。「安物買いの銭失い」という言葉がありますが、これは巡り巡って結局は、自分(たち)も安くものを売る経済の中に組み込まれてしまうという意味でもあります。今、安いものが何でも手軽に手に入る時代だからこそ、「あるものでなんとかする」という発想を、いつもどこかに持っていたいものですね。