言葉が変わると

2月短期クラスの生徒さんたちが無事に修了されました。ひとり1人がとても一生懸命に、積極的な気持ちを持って授業に取り組んでくれたクラスでした。最初のうちは、静かなクラスだと思っていたのですが、それは彼ら彼女らの真面目さゆえであり、研修が進んでいくにつれ、クラスメイト同士が仲良くなり、学校にも慣れてくると、和気藹々、とても楽しく熱心な雰囲気になりました。これは毎回どのクラスでも思うのですが、せっかく素敵なクラスができたのに、終わってしまうのは惜しいということ。介護職員初任者研修のスクーリングは全部で15日間ですが、倍の30日間ぐらいあったら良いのにと心から思います。


そんな素敵なクラスの中でも、私にとって最も印象的であったのは、研修も佳境にさしかかる第13回目の「介護過程」の授業でのこと。授業を担当した小野寺先生も言っていましたし、また授業の最後にコメントしてくれた佐々木先生も述べたとおり、「太田さんは片麻痺だから…○○できない」という言葉が、生徒さんたちからひと言も出てこなかったということです。


太田さんというのはテキストに登場する架空の高齢者であり、この方をモデルとして介護計画をつくり、介護過程を理解していきます。「太田さんは片麻痺だから…○○できない」という言葉が出てこなかったということは、つまりこのクラスにICFの考え方が完全に定着していたということを意味します。

 

ICF(国際生活機能分類)について全く知らないという方もたくさんいらっしゃると思いますので説明しておくと、健康状態、心身機能、障害の状態を分類し、人間と環境との相互作用を基本的な枠組みとする国際的な基準です。細かいことは「介護職員初任者研修」で学んでいただければと思うのですが、簡単に述べると、~できないという視点ではなく、~できる、どうやったら~できるか、と考えるための思考モデルになります。ICFの分類や表を使って考えていくと、同じ状況であったとしても、その人ができることを見極め、何ができるのか、どうやったらできるのかを考えることが自然とできるようになります。

 

ICFの考え方を日常生活でも活かしてください、と先生方がおっしゃるのはそういうことです。活かすというよりは、仕事でも日常生活においても、そのように考えるクセをつけてもらいたいということです。そのような言葉を使ってくださいということです。


たとえば、「Aさんは○○ができないから…」という言葉が多く登場する職場よりも、「Aさんは○○ができるから、やっていただこう。○○をするためにはどうすればいいだろう?」と話し合える職場とでは、その利用者さんに対するケアを長い目で見た場合には雲泥の差が生まれます。

 

それは家庭でも日常生活でも人生においても同じ。人間の言葉と思考はつながっていますので、使う言葉を意識して変えることで、思考を矯正することができます。逆に、「○○できる。○○するためにはどうすればいいか?」と考えるクセがつけば、発せられる言葉や言葉遣いも自然と変わってくるのです。


心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。運命が変われば人生が変わる」


というウイリアム・ジェームズの名言がありますが、私ならそのひとつ前に、「言葉が変われば心が変わる」という一文を付け加えたいです。これから介護の現場に出る皆さまも、ぜひ言葉を意識的に大切にして、ICFの考え方を実践していってもらいたいと思います。