「博士と彼女のセオリー」

映画館で観ることができず、残念に思っていたところ、気がつくとDVDが発売されていたので借りて観ました。私がこの映画に興味を持ったのは、世界的にも超がつくほど有名な物理学者であり難病患者であるスティーヴン・ホーキング博士について知りたいと思ったから。40年近く前、著書「ホーキング博士、宇宙を語る」がベストセラーになったとき、私にとってのホーキング博士は、車いすに乗った天才物理学者でした。それから長い歳月を隔て、私がこの世界に入って学び、彼の患っている病気がALS(筋萎縮性側索硬化症)であることを知ったときの衝撃は大きかったです。時を巻き戻すようにして、何か身近なもの同士が私の中でつながったような気がしたのです。


映画は表面的には美しい映像とストーリーなのですが、その奥底に流れる、ホーキング博士の恋愛や結婚、子育てや家庭生活を通し、天才物理学者でありALS患者ゆえの苦悩と葛藤が描かれています。いえ、本当のことを言うと、物理学や難病とはあまり関係のない、人間そのものが描かれています。この映画の原題は「Theory of Everything」(万物の理論)、つまり全てのものに当てはまる公式ということです。私なりに飛躍して解釈すると、人間というものはこういうものであり、こうして生きていくものだということです。

 

ホーキング博士と妻ジェーンの間には、3人の子どもがいます。ALSを患い、余命が5年と宣告されているにもかかわらず、ふたりは結婚し、しかも子どもを授かることになりました。夫の介護をしながら、3人の子育てをするのはさすがに大変で、しかもそうこうしているうちにホーキング博士の病状は進行していきます。この先はネタバレになるのであまり書きませんが、ホーキング夫妻はそれぞれが相応しい別のパートナーと出会い、新しい人生を歩み始めることになります。

 

そんな矢先、ホーキング博士が授賞式で倒れてこん睡状態に陥るという事態が発生し、妻であるジェーンに医師が「このまま安らかに眠ってもらいますか?」と尋ねます。その時、ジェーンは「なんとしても生かしてください」と即答したのでした。それまでのお互いの苦労や絆があるからこそ、ホーキング博士は絶対に生きたいはずだ、生きるべきだと確信したのでしょう。ホーキング博士は気管切開をして声が出なくなりましたが、彼女の決断があったからこそ、あれから40年経った今でも奇跡的に生きて活躍されているのです。

 

万物の理論のひとつである重力の視点から、時間を巻き戻すように人生を巻き戻していく最後のシーンは必見です。

 

映画とは関係ありませんが、ホーキング博士が彼の子どもたちに向けて、人生における大事なこととして語った3つのアドバイスが私は心に残っています。

 

一つ目は、足元を見るのではなく星を見上げること。
二つ目は、絶対に仕事をあきらめないこと。
仕事は目的と意義を与えてくれる。それが無くなると人生は空っぽだ。
三つ目は、もし幸運にも愛を見つけることができたら、
それはまれなことであることを忘れず、捨ててはいけない。