芹が谷公園から教室に戻ってくると、次は個別ガイドヘルプの計画を立て始めます。ここからが湘南ケアカレッジの全身性障害者ガイドヘルパー養成研修のオリジナルコンテンツとなります。車椅子を押しながら団体で屋外を進むのはどこの学校でも行われていますが、ペアになって、自分たちでプランを立て、2人1組で街中に外出するという内容は、おそらく日本でも初めてだと思います。できるだけ実際のガイドヘルプの仕事に即した研修にしたいという想いから、卒業生さんたちを信じ、勇気を持って挑戦してみることにしました。
この先は町田周辺ルートと相模大野ルートの2部構成となり、それぞれにペアを変えて2人1組で行ってもらうことになります。まずは厳正なるクジ引きによって4人のグループが決まり、その中で2パターンのペアを決めて、町田周辺に行く計画と相模大野に行く計画を2つずつ立ててもらいます。全ての生徒さんたちが、町田周辺と相模大野のどちらのルートにも行くことになります。目的地を決めて、そこにたどり着くまでのルートを考え、潜んでいるかもしれない障害を想定し、途中でチェックポイントを通りつつ、1時間半で帰ってこられるように時間の設定もしなければなりません。
ガイドヘルパーの仕事で最も大切なことは、安全第一、そして時間厳守ということです。安全かつ決められた時間内に目的地まで行って帰ってこなければなりません。そのためには、行き当たりばったりではなく、ある程度の計画や想定や準備が必要になってきます。さすがに事前に歩いてトイレの場所やエレベーターの位置などを確認しておければ良いのですが、研修内の時間では難しいため、こちらである程度の情報は提供しつつ、それ以外は生徒さんたちにイメージし計画をしてもらいます。この段階の計画と実際に行ってみたときのギャップもまた学びのひとつですね。
計画を立て終わったら、まず第1陣が町田と相模大野に別れて出発します。湘南ケアカレッジの入っている建物の前に集合した車椅子を見ると、まるで何かのレースが行われるかのよう(笑)。それぞれが計画に沿った思い思いの場所を目指して旅立つ瞬間です。ここから先は、自分たちの目で見て、耳で聞き、頭で考え、身体で感じて目的地まで辿りつかなければなりません。特に相模大野ルートは、切符を買って駅構内に入り、電車に乗って降りなければなりませんので、難易度が高いです。
町田名物仲見世商店街がチェックポイントの1つです。
でも、最初は皆さん不安や心配を抱えていたようですが、いざそういう状況になってみると、できてしまうものなのですね。仕事を始めるとすぐに利用者さんと2人で放って出され、いきなり電車に乗るという状況になるよりは、健常者同士で練習して、初めての経験をしておくことは大切です。そのための研修であり、やってみた後では、「自信がついた」という生徒さんの声を多く聞きました。とにかく、湘南ケアカレッジの全身性障害者ガイドヘルパー養成研修では、何ごとも自分たちでやってみて、身をもって体験してみることが大切なのです。そこからしか私たちは学べません。
踏み切りを渡ろうとしたら、踏切が鳴り始めて、慌ててバック。
エレベーターに乗るのも車いすだと案外難しい。
お好みの店に入り、お茶をしながら、ほんの少しだけくつろぎます。こういった中でのコミュニケーションも、ガイドヘルプでは大切な要素になります。
午前中の練習を生かし、落ち着いて電車に乗り込みます。
この内容の研修の良さは、個別に外出することによって、その時、その場で感じることがたくさんあるということ。車いすに乗って街中を進む利用者さんの気持ち。どのような視点で世界が見え、何が不安でどのような危険を感じるのか。ガイドヘルパーとの信頼関係や関係性がいかに大切か。そしてガイドヘルパーとしては、普段は普通に歩いている道のりも車いすで進むと、たくさんの障害が待ち構えていること。昔に比べて街のバリアフリー化は進んでいても、それでもエレベーターの数が少なかったり、狭かったり、ホームの端にあったり、また案外車椅子を押しながらエレベーターに乗るのは難しかったり。集団で行動すると体験できないあらゆる不安や不便や困難、そして小さな喜びを、私たちは直接に味わうことができるのです。
改札を通るときは、一番左側の幅の広いところを選びます。
電車の中ではブレーキを掛け、しっかりハンドルを持ち、車いすを安定させます。
晴天の中、全員が無事に戻ってきてくれました。正直に言うと、無難だけれどもつまらない研修にするか、リスクはあるけども学びの多い研修にするか迷いましたが、第1回が終わった今、やってよかったと心から思います。「世界観が変わる福祉教育を」という湘南ケアカレッジの理念に沿って、私たちにしかできない研修ができました。すべては卒業生さんたちのおかげであり、先生方のおかげです。この場をもって改めて感謝します。ありがとうございました。