「僕は介護職員1年生」

最近は介護をテーマにした漫画や本が増えてきていますね。それだけ一般の人たちの興味を惹く話題になってきたということであり、嬉しいことですが、これから先はどのようにして正しい情報を分かりやすく伝えていくのかが課題だと思います。そういった意味では、このマンガはとても読みやすく、介護施設(グループホーム)の日常を扱いながらも、親近感が湧くようなタッチで、実に大切なことを語ってくれています。介護のマンガでいうと、「ヘルプマン」ほどシリアスで熱くはなく、「ペコロスの母に会いにゆく」ほど幻想的ではないという感じでしょうか。これから介護の仕事に就こうという、まさに介護職員1年生の方にはおすすめです。

 

著者の梅熊大介さんは、漫画家を志して9年間のアシスタントを経たのち、2012年からグループホームで働くことになりました。それまで介護や福祉について学んだこともなく、まったくと言ってよいほど知識も経験もなかったところから始まります。しかし、いざ仕事をしてみると、周りのスタッフも様々な仕事や背景を経て介護の世界に入ってきた人がほとんどでひと安心。最初は専門用語を覚えることに戸惑いながらも(このあたりはあるあるで笑えます)、薬を飲んでもらうことに苦労したり、帰宅願望のある利用者さんを通して認知症について深く理解したりと、介護職員として次第に成長していくのです。

 

個人的には、前述した帰宅願望のある利用者さんを通して認知症について理解していく章が好きですね。職員の方々が「ただいま!」と言って出勤してきて、「行ってきます!」と言って退勤することを不思議に思っていた著者が、他のスタッフに質問してみたところ、「それは、ここが皆さんのおうちだから」という答えが返ってきました。そのときは半分納得、半分理解できず、16時になるとお迎えのバスが来て家に帰ると主張してホームを出て、バス停まで行ってしまう利用者さんについて、何度も往復することに正直、嫌気が差していました。

 

ところがある日、仕事を終えて上がろうと思っていたとき、他のスタッフ(上司)から「今日は帰ってはダメ」、「明日も明後日も泊まり」と(ウソで)告げられ、困惑していると、「そのときの気持ちが利用者さんの気持ちよ」と言われ、初めて腑に落ちたのです。

 

自宅に帰りたいという気持ちは、健常な人でも認知症の方も同じであり、それを変なことだと考えたり、問題行動だとしてしまうことがおかしいということです。私も自宅が好きなので(絶対会社とかに泊まりたくない!)、家に帰れなくて苦しい気持ちは痛いほど分かりますし、もし私が認知症になったら同じような行動を起こすはずです。

 

最後の章では、地域とのつながりについて描いてあります。新聞やテレビなどのマスメディアは地域社会の崩壊や孤独死と言って煽りますが、地域は崩れていないと断言しています。地域の人たちは思っていたよりも優しいし、もし地域が機能していないと言う人がいるとすれば、それはその人が地域に参加していないだけだと。私もそう思います。

 

世の中の人たちを優しいと見るか、冷たいと見るか、たとえ対象がまったく同じであっても、それは人それぞれですが、私は人は優しいと思っていますし(もちろんもっと良くしてける部分もたくさんありますが)、誰かが困ったときには手を差し伸べてくれる人が必ずいるはずです。そうお互いを信頼して生きていくことこそが、何よりも大切な社会保障となるのではないでしょうか。