誰かの問題ではない

介護施設における職員から利用者への虐待が過去最多の年間300件に上ったそうです。暴力行為や身体拘束といった身体的な虐待が63%、威嚇や侮辱的な発言、態度による心理的な虐待が43%。虐待の発生要因としては、教育や知識、介護技術の問題が62%、ストレスや感情のコントロールが20%とされています。介護職員初任者研修の中でも虐待の問題についてはお話ししますし、こうした記事を読むだけで胸が痛みます。介護や福祉にたずさわるような人たちによって引き起こされるからこそ、より根が深い問題として考えなければなりません。

 

虐待が過去最多の件数に上ったことに関しては、通報されることが多くなってきたからという見方が正しいのではないでしょうか。虐待自体が増えてきているということではなく、これまでは表面化しづらく、水面下で隠蔽されてしまっていたことが、家族や職員からの通報などによって表に出るようになりつつあるということです。それ自体は良いことですから、なぜ虐待が増えていきているのかではなく、なぜ虐待が起こってしまうのかに問題の焦点を当てるべき。もちろん、経験不足や人手不足による忙しさ、ストレス、理由や要因はさまざまで、人や場所や状況によっても異なりますが、それでも大きな枠組みでの改善策はあるはずです。

 

教育や知識、介護技術の問題が大きい以上、認知症介護に関する研修の充実をすべきという至極真っ当な結論があります。去年、あの事件が起こった川崎市の有料老人ホームでは、38人の職員のうち無資格者が15人もいたということです。訪問介護のヘルパーさんには研修(資格)が義務付けられているのに対し、施設で働く職員は資格がなくても働けるというのもおかしな話ですよね。虐待された利用者の8割は認知症の方であり、認知症に対しての理解や知識が乏しいと、無理やり力づくで言うことを聞かせようとする、その最終地点が虐待になる。同じ認知症の方と関わるのでも、知っていると知らないのとでは大きな違いがありますよね。

 

そして、これはポジショントークでも何でもなくて、介護職員初任者研修を受けていない人が介護の仕事にたずさわるのは難しいんです。それは資格を持っていないとダメとかそういうことではなく、これまでの学校教育では教えられていなかったことですし、知らないまま仕事ができるほど甘い世界ではないということ。介護職員初任者研修を受けると、働く本人が少し安心して仕事に臨めるようになりますし、その仕事の意義や意味が分かっている分(ここが重要)、長く働くことができると思います。もし彼が湘南ケアカレッジの介護職員初任者研修に通ってくれていたら、何かが変わったのではないかと思うのです。

 

 

実は、介護職員初任者研修はふるいにもなっているのです。かつてのホームヘルパー2級講座はわずか8日間の研修でしたが、介護職員初任者研修は15日間となっており、介護や福祉の仕事が合っていない人(そういう方もいると思います)は最後まで通うことができないのです。これは学校を運営して、1500人の卒業生さんたちと密に接し、脱落してしまった何名かの方々を知っているから言えることです。裏を返せば、湘南ケアカレッジの介護職員初任者研修にしっかりと15日間通うことができ、修了してくれた方々は誰もが介護・福祉の仕事に向いていると思ってもらって良いです。何だか思いもよらないところに着地してしまいましたが、介護職員初任者研修はそれだけ重要な研修であるということです。

 

最後に現場レベルで話をすると、わずかな虐待を見逃さない、隠さない、許さない環境をつくることが大切です。人間は完璧ではないので、ひとり一人の倫理観だけに委ねてはいけません。虐待はつまり誰かの問題ではなく、あなたにも問われている問題なのです。