未来を変えてゆくのだ【介護仕事百景】

「たくさんの施設を見て回りましたが、ここがいちばん良かったです」

 

鹿島恵理子さんは、桜山ハイム結生(ゆい)について、そう報告してくれた。湘南ケアカレッジで6月に介護職員初任者研修を修了して以来、十以上の施設を回って、話を聞いてみた上で、最終的にこちらを選んだという。自宅の近くにもたくさんの施設や事業所はあるが、それでも車で1時間近くかけて通うことにした。鹿島さんが働くことになるのかどうか気になっていたので、私は少し安心した。なぜかというと、桜山ハイム結生の管理者であり、湘南ケアカレッジの卒業生でもある新井裕保さんが彼女を切望していたから。新井さんと鹿島さんはケアカレのクラスメイト(42期生)なのである。

恒例の餅つき大会

冬至を少し越えた年の瀬に、逗子にある桜山ハイム結生恒例の餅つき大会に参加させてもらった。この話をすると、たいていの人は「利用者さん、お餅食べても大丈夫なの?」と返してくる。たしかに毎年正月になると、高齢者が餅を喉につまらせて亡くなってしまう悲しいニュースを聞かされるため、私たちは高齢者と餅は油と水のような相容れない関係だと思ってしまっている節がある。そう言われてみればと振り返ってみるが、恥ずかしながら、この質問を返されるまで、そのような不安が私の心をよぎったことは一度もなかった。

 

なぜだろう、たぶん餅つき大会にそのような心配の雰囲気が一切なかったからではないだろうか。もちろん桜山ハイム結生のスタッフは、そんなこと考えてもみなかったわけではなく、むしろ考えた結果として、それでも毎年、餅つき大会をやりたいと願っている。利用者さんたちの普段の食事の様子や状態を踏まえ、お餅を食べやすい小ささにしたり、その他の工夫を施した上で、召し上がっていただく。もし何かあったとしても、連携している看護師がいるので安心だ。普通のことを普通にできるならば普通にしたい。その想いは誰もが同じだろう。餅つき大会が始まるや、利用者さんたちだけではなく、そのご家族や子どもたちも続々と集まってきた。

ペットと暮らせる

「ペットと暮らせる」というキャッチフレーズの桜山ハイム結生は、今は流行りのサービス付高齢者住宅である。略してサ高住。バリアフリーになっている高齢者向けの賃貸住宅であり、安否確認や生活相談サービスなどが付いてくる。まだ元気なうちから入居することもでき、必要になれば介護や医療のサービスを提供してもらう。有料老人ホームとの大きな違いは、介護や医療、生活支援サービスがもとから含まれているかどうかということ。そういった意味においても、サービス付高齢者住宅の利用者さんは自立度が高い方が多い。

そうは言っても、実際のところは、要介護度の高い方やターミナル(終末期)の方が入居されることもある。「2時間おきに体位変換が必要な利用者さんがいらっしゃるので、今日もこのまま夜勤に入ります。一進一退の状況です」と新井さんは教えてくれた。「今、そういう状況なので、ペットとは離れ離れになってしまっているんですよ」と子犬(タロウ)のおなかを撫でる。私にはタロウの表情が曇っているように見えてならなかった。私もトイプードルを飼っているのでそう思いたいのかもしれないが、犬も飼い主の危機的な状況を察するのではないだろうか。言葉は分からなくても、犬たちは知っていると思いたい。

どういうものがほしいですか?

取材をさせてほしいと桜山ハイム結生に頼みに行ったとき、創業者の矢部一郎さんに「うちは絵になるようなところはないからなあ」と笑って返されたことがある。この方の経歴が面白くて、原子力関係の仕事を定年まで勤めあげ、そこから心機一転、57歳にして介護福祉士の専門学校に入学した。当時の介護の専門学校は、今とは違って高校を卒業したての若者がほとんどで、何よりも仲間に入れてもらえるかどうか心配していたが、「さすが福祉を志すような若者だけあって、すんなりと仲間に入れてもらえました」という。今でも矢部さんの自宅に集まってバーベキューをしたりする。57歳の同級生を受け入れた周りの人たちも確かに素晴らしいが、それは矢部さんの人柄もあってのことだと私は思う。

 

もともとはケアハウスをつくろうと思っていたが、行政とのやりとりの中、資金面でとん挫してしまったことがある。それまでの「私がこういうものをつくります」から「どういうものがほしいですか?」というスタンスに変えなければならず、そこから生まれたのが高齢者のグループ向けの部屋貸し(今はデイサービスのリハビリステーション結生になっている)であり、最終的には自分のやりたい介護ができる(サービス付き)高齢者住宅をつくることになった。最初は2、3名の入居者しかいなかったが、最近ようやく満室になって軌道に乗り始めた。この先は、さらに求められる介護サービスを提供するために、小規模多機能、第2のサ高住をつくる計画が進行中である。

管理者の新井裕保さんはつかみどころがない。それは不思議という意味ではなく、まるで雲のように柔和な人だということ。彼はいつも笑顔で人と接し、誰のことも悪く言わないし、誰に対しても公正に向き合ってくれる。湘南ケアカレッジの実技テストが終わったあと、小野寺先生と握手をしながら、目に光るものがあったことを私は忘れない。その理由は知らないが、彼が熱い気持ちを持っていることだけは分かる。

 

「現場と共生のマネジメントをモットーにしています。そのためには、その現場に寄り添い、体感することが何よりも大切と肝に銘じながら、これまで多くの現場で経験を積んできました」と彼は語る。その言葉を私は信じている。

 

実は新井さんは株式会社昌英に籍を置いている。株式会社昌英は訪問看護ステーションをはじめ、デイサービスや訪問介護、在宅支援診療所等をグループ内に有しており、新井さんは「ショウエイケアステーション」の管理者でもある。少し複雑ではあるが、「桜山ハイム結生」は株式会社昌英に施設の運営を委託しており、新井さんは株式会社昌英から出向してくる形で「桜山ハイム結生」にやってきた。この運営委託によって、介護と看護そして医療との強固な連携が完成したということである。それまでは入居してもらえなかったような介護度が高く、医療的ケアが必要な利用者さんも受け入れることができるようになった。

 

身内だったらこうする、という介護をしたい

介護と医療・看護によるチームケアというと響きは良いが、実際のところは、看護師が利用者さんの犬の散歩をしたりもする。私は看護の専門だから医療的なことしか知りません、私は介護の専門だから介護的なことしかやりませんとなると、どちらでもないすき間が生じるという。本当の意味において、利用者さんの生活の質の向上を目指すのであれば、それぞれが自分の専門性を超えていかなければならない。介護保険制度にガチガチに縛られるのではなく、それぞれの専門性の外にある部分を埋めてこそ、真のチームケアは完成するのである。

「身内だったらこうするよね、という介護をしたい」と矢部さんも新井さんも口を揃える。仕事や職業として介護を提供することを否定しているのではなく、それを超えた介護を提供したい、できるかぎりのことをしたいという気持ちの現れである。そこには愛情や尊敬や親密さがなければならないという意味でもあるだろう。私も母が祖母を丁寧に介護する姿を見ているからよく分かる。熱いこころと冷静な頭を持って介護をしなければならない。だから、洗濯機が壊れたら修理するし、トイレが詰まったら直す。この前はペットの糞を利用者さんがスリッパで引きずってしまい、フンまみれになってしまった床を綺麗になるまで掃除してから、もう1度、食事を温め直してお出ししたという。そういうあらゆる全てが生活を支えるということだ。

せっかくなのでと、新井さんに施設内を案内してもらった。エレベーターで2階、3階と上がっていくと、どこからどう見てもマンションにしか見えない。まあ、高齢者住宅なのだから当然と言えば当然か。満室のため、残念ながらお部屋を見せてもらうことはできなかったが、1部屋は30㎡以上と広く、夫婦で住んでいる方々もいるという。食堂に入ると、ガラス張りで、冬景色が広がっていた。厨房でつくった食事を、暖かい光を浴びながら、こちらでゆっくりと召し上がってもらう。

餅つき日和というものがあるとすれば、今日みたいな日のことだろう。気持ちが引き締まるほどに気温は低くても、陽の当たる場所はほかほかと暖かく、餅つく人は額の汗を拭いている。桜山ハイム結生は小高い丘の上にあり、眼下に人里を見ながら、餅を食べるのはなかなか趣がある(と感じるのは私だけだろうか)。

卒業生の佐竹英吾さんが餅をつき始めた。正確に言えば、あと1日振り替えを残しているので、卒業生ではなく生徒さんである。彼は新井さんの強い勧めによって、逗子からケアカレまで毎日通ってくれた。「あそこの学校に行った方が良いよ」と言われ、遠くからでも通ってくれる。そのような、ここでなければだめ、ここにしかない学校に私たちはなりたい。だからこそ、いつも開始時間ギリギリに駆けこんできてくれる佐竹さんの姿を見て感謝をし、新井さんのためにも、なんとしても湘南ケアカレッジに来て良かったと思ってもらいたいと願った。そんな願いは叶ったのだろうか。

 

そういえば、佐竹さんもケアカレで泣いていた。介護職員初任者研修のターミナルケアの授業でDVDを観終ったときに、「泣きましたよ」、「いや、寝ていただろ」という掛け合いが彼とクラスメイトたちの間であったのを私は聞いていた。彼の主張だけに真偽のほどは分からないが、私は泣いていたと思う。あまり表に感情を出すタイプではなく、誤解されることもあるかもしれないが、とても心優しく真面目な男なのだ。

血が騒ぐ

佐竹さんが餅をつく姿を、うしろから微笑みながら見ている高齢の男性(Yさん)がいた。「もっと腰を入れて、振り下ろすように」とアドバイスを送っている。私はその利用者さんに興味を持ち、「お餅はどうですか?」と話しかけてみた。「とても美味しい。しかも食べやすいね」と答えてくださった。そして、餅つきを見ると血が騒ぐよと言わんばかりの表情で、「かなり昔だけど、僕も若かったときには、よく餅をついたんだよ」と教えてくれた。きなこ、あん、納豆、しょうゆ味に海苔。私もいただいたが、久しぶりに食べるお餅は、たしかにどれも美味しかった。

 

あとから新井さんに聞くと、Yさんは普段からリハビリのとき以外は部屋から一歩も出ないという。だから新井さんにとっては、部屋からここまで出てきてくれたことが驚きだという。最近はリハビリの一環として、近くの公園まで散歩することができるようになったが、それまではほぼ寝たきりの生活を送っていた。間質性肺炎を患っているのだ。桜山ハイム結生に来たときは、もう長くないと言われていたそうだ。退院後、タバコは吸うわお酒を飲むわで、前の施設ではお手上げでこちらにやって来た。そんな状況にあるとは思えなかったし、その話を聞いてからYさんを見ても、とても信じられない。それぐらいYさんは生き生きと輝いていた。

そんなYさんの横に、いつの間にか座って、これまた美味しそうにお餅を食べている女性がいた。湘南ケアカレッジの卒業生である鹿島さんである。桜山ハイム結生で実際に仕事を始めるのはもう少し先になるそうだが、餅つき大会に誘われて、参加しに来たという。彼女は独特の包み込むようなオーラを持っていて、彼女と話すと誰もが幸せそうな顔になる。自分が全存在として受け入れてもらえているという、たとえようのない安心感。どこまでも水平なこころが彼女の魅力である。

 

彼女が湘南ケアカレッジに入る前に見学に来てくれたことがあり、下のカフェで研修の説明や相談や質問を受けたりする中で、私もこの安心感を味わったことがある。見学者のこころをときほぐし、不安を解消して、安心して入学してもらうのが私の役割であるにもかかわらず、彼女と話をしていると、私のこころがときほぐされ、安らかになってゆくのだ。彼女に吸い込まれていくような不思議な感覚。それはコミュニケーションを遥かに超えたもの。彼女と晩年の日々を過ごすことができる利用者さんがうらやましい。

餅つき大会が終わり、利用者さんたちは部屋に戻り、その家族は帰途に就きはじめた。スタッフさんたちは無事に終わったことに胸をなでおろし、ホッとひと息つきながら、ゆっくりとあと片づけを始めようとしていた。そんな中、新井さんと鹿島さん、そして佐竹さんが並んで話している姿があった。何を話しているのだろう。ケアカレの思い出か、餅つき大会の感想か、それともこれからの桜山ハイム結生の未来についてか。斜めから射し込む冬の陽ざしを浴びながら、逗子の街並みを背に丘の上で語る3人を見て、これからの時代を、日本の未来を、彼ら彼女らが変えてゆくのだ、私にはそう思えてならなかった。

採用情報

施設・事業所名称

株式会社 結生

サービス付高齢者住宅「結生」(及びグループ内施設)
サービス形態 サービス付高齢者住宅・デイサービス・小規模多機能
勤務場所 逗子市桜山5丁目
最寄り駅・アクセス

JR横須賀線逗子駅・京急逗子線新逗子駅より徒歩20分

(または駅よりバス)バス停・福祉会館前より5分

募集職種 施設職員
雇用形態

常勤・非常勤(パート)

仕事内容

・施設入居者(利用者)の生活支援及び身体介護

洗濯・清掃・入浴・食事・移乗・排泄・通院介助

・マンションサービス

安否確認・ペットの散歩・外出支援(送迎)・買物代行等

給与

常勤:当社規定による(経験・能力考慮)

非常勤(パート):950円から

ボーナス

業績による

勤務時間

9:00~17:00(早番8:00~16:00) 

夜勤17:00~翌9:00

非常勤(パート)は上記時間にて週1日から可

休日

常勤:週休2日(曜日はシフトによる)

資格

介護職員初任者研修・ヘルパー2級(普通自動車免許あれば尚可)

見学 OK ボランティア歓迎します(食事無料・交通費支給)
夜勤 あり(回数・曜日等は相談による)
交通費 別途支給
社会保険 常勤に限る
車通勤 応相談
昇給 能力・業績による
選考プロセス

履歴書・職務経歴書を郵送。書類選考の上面接実施し採否決定。

求める人物像

心身共に健康で誠実な方

その他 施設行事

3月・桜花見(桜山・久木) 4月・つつじ鑑賞(葉山)

5月~6月・花菖蒲鑑賞(横須賀) 10月・さんま祭り(施設内)

11月・いも煮会(施設内) 12月・餅つき(施設内)

利用者さん・スタッフ共に誕生日プレゼント

★桜山ハイム結生で働いてみたい方、またお問い合わせ等は、以下のメールフォームまたはお電話(042-710-8656)で村山まで。担当の方までスムーズにおつなぎします。