最近でこそ、たくさんの人たちと初対面でもコミュニケーションを取ったり、人前で話したりすることが普通にできるようになってきましたが(それでも上手な方には到底かないません)、かつては人見知りをする、冗談も通じない堅物でしたし、大勢の人前で話すなんてとんでもないことでした。いつからそうできるようになったのだろうと振り返ってみると、やはり仕事を通して覚えていったのだと思います。望月先生が初日の授業の中で、「私は昔はこんな笑顔の人間ではなかった」と話す気持ちがよく分かります。人間の性格は生まれつき(かなりの程度で)決まっていますが、人間性は周りの環境、特に仕事によって磨かれるのだと思うのです。
特に仕事と書いたのは、仕事は周りの環境に適応するために自分を矯正していく社会化だからです。あまりにも社会に適応しようとしすぎるのもつまらないのですが、かと言って、自分の思うようにだけ生きるのもつまらないものです。こうあるべきという姿と自分自身とのギャップを感じるからこそ、私たちは時には背伸びをして、努力して、自分を高めようとするのでしょう。私自身も最も自分が磨かれたと感じたのは、大手のブラック介護スクールで働いていたときのことでした。月500時間の労働の中で、自分自身の能力を極限まで引き出してもらったことで、自分のできることと苦手なことが分かり、自分の限界を知ったことで他人の助けを借りる大切さを学びました。何よりも、人の優しさを知りました。
マイナスから始まったコミュニケーション能力も人前で話す力も、やらなければならない、うまくならなければならないという強い要請があったことで、ようやく人並みにできるようになったのです。できることを伸ばすというのは最も大切なことですが、できないことはそのままで良いのかというと、そうではないと私は思います。あきらめることなく、場をこなすことで、経験を積むことで、努力をすることで、ある程度はできるようになった方がいいのです。そのための強制力が仕事にはあるのだと思います。仕事だからこそ、苦手なことが少しでもできるように頑張ることで、その過程で人は磨かれるのです。
私は介護・福祉教育の世界に入って、たくさんの働く魅力的な女性たちに出会いました。それまで働く女性と深く接する機会はほとんどありませんでしたので、彼女たちとの付き合いは新鮮でした。彼女たちと仕事を通して、または仕事以外の面でも、多くの時間を共に過ごすことで、働くことによって人は磨かれるのだと確信しました。彼女たちは、もともと魅力的であったわけではなく、仕事を通して、いろいろな人たちと接し、様々な経験をして、あらゆる困難を乗り越えてきたことで人間性が磨かれたのです。もちろん女性だけではなく、男性にも同じことが言えますね。私たちは良い仕事を通して、良い方向に自分を磨いていかなければならないのです。