心を病む仕事

先日、お問い合わせの電話が掛かってきました。「友だちと2人で受けたいと思って、日曜日クラスを検討しているのですが、今何人ぐらいですか?」「短期クラスはまだ空きはありますか?」「分かりました。それでは、友だちと相談して決めたいと思います」ガチャ。この会話の内容だけでピンと来る方は相当な業界通なのですが(笑)、実はこれ、他校の状況を探るいわゆるスパイ電話というやつです。電話先の女性の後ろで電話が鳴っていたことを含め、ピンときてしまったので調べてみると、案の定というか、私がかつて働いていた大手の介護スクールだったので驚きました。

こうした電話をするときには、普通は非通知設定にしてから掛けるのが常識ですが、たぶんし忘れたのだと思います(笑)。または開き直っているのか分かりませんが、相変わらずだなと思いました。というのも、正直に言うと、私がそちらで働いていたときにも、他の介護スクールの募集状況を生徒のふりをして偵察していたからです。誤解されると困るのですが、私が積極的にやっていたのではなく、会社の業務命令として行っていました。むしろその当時から、こんなことをして何の意味があるのかと心の中では思っていましたので、他のスタッフに頼むときには罪悪感を覚えたものです。

 

心を病む仕事というものがあります。本当は必要と思っていないものを売りつける仕事、相手を傷つけたり、相手から何かを奪う仕事、ウソをつかなければならない仕事、自分の信念と反している仕事、心の通い合いが全くない仕事など、世の中には自分の心と折り合いをつけるのが難しい仕事があります。

 

私もたくさんの心を病む仕事をやってきました。やらなければ、生きていけなかったから。でも、できることならばやりたくないと思っていましたし、それを他のスタッフたちにやってもらうときにはさらに心が痛みました。しかも、心を病む仕事は、その場限りで終わるのではなく、長い間にわたって私たちを苦しめます。私は今でもあのときの心の痛みを感じることができます。

 

たぶん今回、電話をしてきた女性も心を痛めていると思います。非通知にするのを忘れるぐらいですから、もしかしたら新入社員の方かもしれません。希望を胸に社会に出たら待っていたのが、自分を偽って相手の状況を聞き出す電話掛けだとしたら…。スパイ電話なんて可愛いものです。その学校は公然と二重価格表示を行い、キャンペーン期間は〇月〇日まで締め切りと煽りながら、毎月延長され、1年中行われているというありさまです。

 

今だったら私も「そういう恥ずかしいことやめましょうよ。働いている人が心を病みますよ」と言えますが、そこで働いている当時は情けないことに言えませんでした。心のどこかでおかしいと思っていても、働いている人々はなかなか言えないものですよね。だからこそ、上に立つ者やチームのリーダーの役割を担う者は、常にこう問わなければならないのです。

 

何のために仕事をしているのか?

これは心を病む仕事ではないのか?

 

そして何よりも、自分は心を病んでいないか?