「日本はどのようにして介護の仕事に対する人々のイメージを変えたのですか?」という質問を中国人の女性から受けました。たとえば、テレビにCMを打ったり、マスメディアが介護職の素晴らしさを伝えたり、そういった国としての広報をしたのですか?という主旨の質問でした。質問をされて初めて考えることもあり、質問された側がハッとさせられるような良い質問でした。私はその場では、「介護の仕事にたずさわる人が増えて、普通に周りにいるような環境ができたことで少しずつ変わってきたのだと思います」と答えましたが、あとから考えてみると、それだけではない気がします。
最近、中国からの視察を受けることが増えてきました。日本の介護・福祉教育の現場を見ていただき、これからのあるべき姿について話します。中国にはまだ日本の介護保険制度のようなシステムはなく、介護に対してお金を払える富裕層のみがサービスを利用しているのが現状です。とはいえ、一人っ子政策により、今の30代の方々の親世代が高齢者になる頃には、今の日本と同じように2人の高齢者をひとりの若者が支えなければならない社会が到来するのは明らかとのこと。日本よりも10年ぐらい遅れて、超高齢化の波がやってくるということに備えて、分かっている人たちは取り組んでいるのです。
そういった状況の中でも、中国における介護職のイメージはまだあまり良くないそうです。都市部の若者たちは他の華やかな仕事を求めている一方で、地方から出てくる人たちが都市に住む高齢者の介護をするという構図です。だからこそ、日本でこれだけ多くの人々が(特に若い人たちも)、介護の勉強をして、介護の仕事にたずさわっているのが、中国の方にとってみれば不思議に思えるのでしょう。そこで冒頭の質問が挙がったということです。
良く考えてみると、日本もひと昔前までは介護の仕事に対するイメージは、今の中国のそれと同じようなものでした。誰でも介護の仕事をすることができましたし、専門職として認められているとは言い難かったと思います。そこで介護保険制度ができ、介護にたずさわる人たちの資格や教育制度がつくられました。私たちは気づかないかもしれませんが、介護や福祉の教育が少しずつ行き届くようになって、変わってきたところもあるのではないかと思うのです。教育の目には見えない力が、人々のイメージを少しずつ変えてきたのです。もちろんまだまだこれからですし、もっと変わっていなければならないのですが、外から見てみると、少しずつ大きく変わってきたことが分かるのです。教育には大きな力があるのです。