新聞社や報道局でジャーナリズムの仕事にたずさわってきた著者である神戸金史さんには、自閉症の息子がいます。2016年7月に相模原のやまゆり園で起きた大規模な殺傷事件を受け、「障害者なんていなくなればいい」と言い放った犯人に対し、障害のある子どもの父として、ジャーナリストとして、彼は居ても立っても居られずに、「障害を持つ息子へ」という一遍の詩を書きました。その詩はSNSによって瞬く間に拡散され、多くの人々の共感を呼びました。本書は神戸さんの息子金佑くん(かねやん)を中心とした、母や弟らの家族や周りの人々、そして障害のある子どもを育てる他の家族のドキュメントになっています。
自閉症に対する、世間の人々の誤解や偏見をなくすことから始めなければいけない、と著者は考えます。自閉症は、その文字や言葉のニュアンスから、引きこもりや引っ込み思案といった性格的な問題と誤解されることがありますが、そうではなく、生まれながらの脳の機能障害です。自閉症の表れ方には、それぞれに特徴が違いますが、「言葉の発達が遅れる」、「人とのかかわり方が分からない」、「感じ方に一貫性がない」、「知的機能が偏って発達する」、「活動と興味が限られる」という傾向が多かれ少なかれあります。こうした自閉症の子どもを育てる親が、周囲からのプレッシャーにさらされながら、どれだけ大変な思いをするかは、私たちの想像を遥かに超えていくはずです。
母親が子どもを道連れにする無理心中の事件を聞くと、子どもの障害が原因となったケースが実は多いのではと著者は主張します。これは当事者の実感であり、ジャーナリストである著者ゆえの発想であり、たしかにそういったケースは多いのかもしれません。そういった情報は報道されることもないだけに、事件の概要を聞いた一般の人たちは、「自分だけならまだしも、かわいい子どもまでなぜ殺すのか」と首を横に振るのではないでしょうか。本書に掲載されている家族の笑顔の写真は幸せそのものですが(もちろんそうなのだと思います)、その陰には、たくさんの泣き顔やひきつった顔、思い詰めた顔などが隠れているのだと思いました。
「障害者なんていなくなればいい」という考えに対し、どのように反論すべきか。何から書いて良いのか分からないほどに、難しくて重いテーマです。そう思いながら本書を読み進めていくと、最後にある神戸さんの妻、つまりの金佑くん(かねやん)の母の手記に行き当たりました。障害のある子どもをずっと見守り、育ててきた母親としてのひとつの思想が綴られていて、これ以上の明快な答えはないと私は思いました。ケアカレ図書館に置いてありますので、ぜひ読んでみてください。