認知症の人がスッと落ち着く言葉かけ

ここ最近、認知症関連の本が数多く出版されているように、それだけ人々の関心が高いテーマであり、また認知症に対しての考え方やアプローチも多種多様で答えがないということですね。つまり、今現在、一般に流布している認知症に関する知識や対応法は玉石混交、これから先、大きく変わって進化していく可能性が十分にあるということ。すべてを鵜呑みにするのではなく、そういった考え方や言葉がけもあるのだと、自分の思考の幅を広げるためにも、いろいろな本をぜひ読んでみてもらいたいと思います。この本は望月先生が読んでみて「なかなか良かったですよ」とのことで、さっそく私も読んでみました。

 

認知症の人は引き算の世界に住んでいる、という著者の発想は面白いと思いました。たとえば記憶の壺があるとして、私たちは日々、その壺にあらゆる知識や経験などをプラスして生きているのですが、認知症の人は記憶の壺が割れていて、そこから記憶が漏れ出ていってしまう。これまでは記憶にあったことが少しずつ減っていき、これまではできていたことが少しずつできなくなってゆく中で生きていかなければいけません。認知症の人が私たちとは違う世界に住んでいると知った上で、私たちはサポートしていくことが大切なのです。だからこそ、説得ではなく納得であり、引き算を使った言葉がけが提案されています。

 

引き算の言葉がけとは、引き算の世界に住む認知症の人たちに合わせた言葉がけのことです。ふたつの世界をつなぐ架け橋であり、私たちの世界との橋渡しをするウソでもあります。たとえば、元国家公務員の利用者さんがいらっしゃって、非常にプライドが高く、食道に行こうと言っても、まったく言うことを聞いてくれない場合、「さあ、今日は県知事の諮問会議がありますから会場へ参りましょう!」と言うことです。認知症の人は自分が国家公務員として引き算の世界に生きていますので、そこに私たちが合わせることで、本人から納得を引き出し、穏やかに生活をしてもらうようにするのです。

 

引き算の世界に合わせて、引き算の言葉がけをするためには、実は介護職員はその認知症の人に関する知識や興味がなければならないということでもあります。こちらの世界に引き戻したり、こちらの世界の論理で話をするのは簡単ですが、相手が生きている世界を想像し、理解し、それに合わせて適切な言葉がけをすることがどれだけ難しいことか。これは私たちが私たちの世界で普通に生きていく上でも必要なコミュニケーション技術のひとつですが、その究極の形が認知症の人とのやり取りということですね。

 

 

これらの引き算の言葉がけは、時として、その場しのぎに終わってしまいがちなので、そこからさらに先に進みたい人は、認知症の人がなぜそのような言動をするのかという根本原因を考えてみることが重要です。たとえば、何か強烈に不安に思っていることはないのか、お腹が減っていたり喉が渇いていたりしないのか(栄養や水分が足りているか)、よく寝れているのか(睡眠は十分か)、日々の生活につまらなさを感じていないか(刺激はあるか)など。結局のところ、その場しのぎの言葉がけでごまかすよりも、根本原因を取り除くことで解決することがあることも知っておいてもらいたいと思います。