「うつぬけ」とはつまり、うつの症状から抜け出した人たちのことです。著者自身もうつに悩まされたひとり。10年近く彷徨ったうつのトンネルをようやく抜けることができ、その体験をもって、うつに苦しんでいる人々を救う側になりたいとマンガを描くことを決意したそうです。湘南ケアカレッジに来てくださる生徒さんたちの中にも、うつの悩みを抱えていた、もしくは今苦しんでいるという方は少なからずいて、これまでも話を聞かせていただくことが多々ありました。そういう意味において、私にとっても身近な問題ですし、誰がいつそうなるか分からない病気である以上(あとに書きますが、私もかつてなりかけたことがあります)、明日は我が身に起こることであると知っておくべきなのです。
このマンガにはうつ病に関する説明はありません。それはうつ病というものが、原因の特定が難しく、症状の現れ方もそれぞれに異なってくる精神的な障害であるからだけではありません。むしろどのようにして長いトンネルを抜けることができたのか、そこに焦点を当てているからです。うつを抜けた18人(もちろん今もうつと付き合っている人も)の体験談を読んでいると、その原因も様々であり、その症状もひとつとして同じものはなく、うつがいかに個別性の高い問題であるかが分かります。そして、ほとんどの場合、偶然のできごとや出会いによって快方に向かうのです。
実は私もうつになりかけた(初期症状が現れた)体験があります。今から15年ほど前のある朝のことでした。いつもは家から最寄りの駅まで走って行くところを、その日はなぜか身体が言うことを聞かないばかりか、脳が仕事に行くのを拒否しているような感覚を味わいました。うつについて、ある程度の知識があった私は、「ああ、この自分の意思と脳と身体がバラバラになる感じはうつだ」と直感しました。
どうしても休めないことは分かっていたので、自分を鼓舞しながら無理をして行きましたが、あのとき私は、うつのトンネルの入り口に一歩足を踏み入れていました。私はうつについて知っていたからこそ気づけたし、脳を休めようと冷静に対応できましたが、あのまま突き進んでしまっていたらもしかすると大変なことになっていたかもしれません。
私の場合は、原因ははっきりとしていて、過度の睡眠不足と仕事におけるストレスでした。あの頃の私は激務のため、4時間ほどの睡眠しか取れない日々を送っていました。そんな状況が365日続くと、たとえ若くて健康であっても、脳が疲労してきます。そこに加えて、処理しきれないほどの業務を抱えつつ、上司との折り合いも悪く、全てを一人で抱えて仕事をしていました。
そんな仕事は休めばいいと言われるかもしれませんが、超高速で回っているラットレースの中から抜け出すのは極めて難しく、それはたとえば時速200kmで運転しているブレーキの利かない新幹線から飛び降りろと言っているようなものです。転勤によって職場が変わることで私は救われましたし、最終的には仕事を辞めることで全ては良き思い出になりました。あれ以来、私は働き方についてよく考えるようになり、新しい働き方をしようと今も模索しています。だからこそ、湘南ケアカレッジの法人名は「ワークシフト」(働き方を変える)なんです。