質問をしに来てもらえること

質問をしに来てもらえること。私が塾で子どもたちを教えていたとき、自分の教師としての力量を知るために用いていた指標のひとつです。良い授業をしているほど、教師として(人として)魅力があるほど、生徒さんたちは先生に質問をしにくる傾向にあります。なぜ質問をしに来るのでしょうか?ただ単純に、授業の内容で分からない点があるから、だけではありません。たしかにそのような質問もありますが、テキストを調べれば書いてあることかもしれません。生徒さんが先生に質問をする最大の理由は、その先生と話したい(人間的な関係性を持ちたい)からです。

 

そのことに気づいたのは、教えることを仕事にし始めて、しばらく経ってからのことでした。ある時期、周りの先生方にはよく質問に来ているのに、私の元にはほとんど来ないということありました。当時は教室長という立場ゆえに子どもたちが質問しづらいのだろうと考えていたのですが、そうではありませんでした。忙しそうにしていたり、授業が終わるとすぐに生徒のいない事務所に戻って仕事をしていたりして、どこかで生徒さんとの間に心理的・物理的な壁をつくっていました。今から思うと、生徒さんたちに対する褒め・認めも少なく、この先生の話を聞くと成長につながるという実感も与えられておらず、授業の内容的にももっと学びたいと思ってもらえるものではありませんでした。

 

もう1度、生徒さんに対する接し方や授業の内容を見直してみることにしました。できるだけ生徒さんたちと同じ空間にいるように努め、子どもたちの良いところ(できていること)を見つけて褒め・認める。また、授業の内容も楽しく学びつつ、興味を持ってもらい、分かったという成功体験を得て、もっと知りたいと思ってもらえるように変えていきました。そうすると、少しずつ私のところに質問をしに来てくれる子どもたちが増えました。質問の内容は大したものではないことも多かったのですが、よくよく話してみると、子どもたちは私と直接やりとりしたかっただけなのだと気づいたのです。話したくても、いきなり話しかけるのは気兼ねしてしまうので、質問という形をとって、先生に少しでも近づきたいだけなのです。それ以来、授業を自己満足で終えるのではなく、授業前後に子どもたちが質問に来てくれるかどうかのリアクションを、他者評価のひとつとして取り入れることにしたのです。

 

そういえば先日、卒業生さんが質問に来てくださいました。いきなり訪問に入ることになり、移動・移乗から排泄までの支援があるとのことで、当日の午前中に切羽詰まってケアカレを訪ねてくれました。望月先生が話を丁寧に聞いてくれて、卒業生さんは安心して帰っていきました。後日、以下のようなメールが届き、私も胸をなで下ろしました。全身性障害者ガイドヘルパーの研修も申し込んでくださって、学びたいという気持ちをさらに広げられたことを嬉しく思います。

 

先日は大変お世話になりました。相談した利用者様宅にはどうにかサービスに入れています。日々が慌ただしく、ただ介護と言う新しい世界が楽しくもあり私なりに頑張っております。望月先生にも宜しくお伝えください。実務者研修、ガイドヘルパーと共に宜しくお願い致します。

 

他にも、実務者研修の授業後、生徒さんたちが実技演習について集団で質問に帰ってきてくださったこともありました。やり方だけではなく、その根拠や考え方もお伝えすることができ、質問してくれたことに感謝しつつ、生徒さんたちにとっては大きな学びがあったはずです。また、3年前の介護職員初任者研修の授業後に、消防士になるべきかどうか悩んでいると藤田先生に相談してくれた生徒さんが実務者研修でケアカレに戻ってきて、医療的ケアの授業で再会したというエピソードもあります。今は立派な介護士になって活躍しています。

 

 

湘南ケアカレッジはこれからも質問をしてもらえる学校でありたいと願っています。質問したいと思ってもらえる先生方が集まって、素晴らしい授業を展開し、質問できる湘南ケアカレッジをつくってくださっています。だからこそ、先生方が生徒さんから質問を受け、丁寧に答えてくださっているシーンを見て、私は嬉しく思います。そこには学校と生徒さん、先生と生徒さんという壁を越えた、人間的なコミュニケーションがあり、そこにこそ私たちの未来が見えるからです。