「誰もがチャレンジできる社会を目指して」

ケアカレナイトにおいて、乙武洋匡さんの講演が行われました。100名を超える卒業生さんたちや福祉関係者の皆さまにお集まりいただき、乙武さんが控え室に入った頃にはすでに会場は熱気に包まれていました。割れんばかりの拍手の中、乙武さんは登壇し、このような時間帯にもかかわらず、たくさんの方々が集まってくださったことに感謝の意を述べつつ、今回の講演のテーマであるチャレンジすることについて語り始めました。小学校の先生の思い出から義足プロジェクトについてまで、自分にできることをできる限りやることの大切さを教えてくれました。個人的には、質疑応答で3名の方の質問に応じてくださったのですが、その深い受け答えには、乙武さんが乙武さんであり続けるゆえんが込められていた気がしました。

私の心に残ったことを記しておくと、ひとつは「ユニーク」であること。日本では「あの人はユニークだね」と言うと、ともするとマイナスの意味も含まれていることが多々あります。一方、海外ではユニークは「唯一」という意味であり、最高の褒め言葉になります。私たちはそれぞれがユニークさを必ず持っているはずです。たとえば、乙武さんは自分の考えていることやビジョンなどを言葉にして伝えることを得意としており、それを生かして自分のユニークさを表現していくことができます。決して上手でなければならないという訳ではなく、中身がユニークであることが重要なのです。ユニークさを突き詰めていくと、自分にできることをできる限りやるしかない、と心が決まるはずです。

 

 

それから、「お互いさま」ということ。社会の役に立ちたいと思っても、障害のある自分に何ができるのか不安でしかないという質問に対し、その気持ちは良く分かるけど、自分だけで何かをするのではなく、いろいろな人に助けてもらった方が良いとアドバイスしてくれました。実は健常者であってもできないことやダメな面はたくさんあって、お互いが許したり助け合ったりして生きています。たとえば忘れ物が多い人は誰かに貸してもらったり、時間にルーズで遅刻しがちな人は時間にキッカリしている人に許されて生きている。誰にでも凸凹なところがあって、凹に凸が合わさってひとつの形になるように、自分の凹に凸を合わせてもらったり、自分の凸を誰かの凹に合わせるようにすればよいのです。

もうひとつは、誰かの手を借りることが前提になる社会であるべきということ。「皆さんに今、赤ちゃんがいて、ベビーカーを押して目的地まで行きたいのですが、最寄りの駅にはエレベーターがありません。隣の駅にはエレベーターがあります。皆さんならどうしますか?」と乙武さんから全員に質問が投げかけられました。

 

A、それでも最寄りの駅から乗る

B、エレベーターがある隣の駅までベビーカーを押して行ってから乗る

 

手を挙げてもらったところ、Aに挙げた方は全体の11%ぐらい。対して、Bに挙げたのは残りの89%ぐらいでした。私も隣の駅にエレベーターがあるのが分かっているならば、少し遠回りをしてでも隣の駅まで押していくかなと思いました。その結果を受け、乙武さんは「日本では大体そのような結果になるのですが、海外では比率が逆になります。つまり、Aのそれでも最寄りの駅から乗ると答える人が9割ぐらいいるのです」と切り返されました。一瞬、何を言っているのかと疑問に感じましたが、「そう、エレベーターがなくても、誰かが助けてくれたら乗れるのです」と言われたとき、ハッと気づかされました。

 

インフラが整備されていなくても、人の手を借りることで障害が障害でなくなることがたくさんあるのです。もちろん、ハード面の充実は大切なことですが、日本に本当の意味で足りていないのはソフト、つまり、困っている人がいたら率先して手を差し伸べるという意識なのではないかと思いました。それはお互いさまであり、自分が困ったときには誰かに助けてもらえば良いのです。そうすることで、もっと自分のユニークさを出して生きていくことができ、誰もが安心してチャレンジできる社会になるのではないでしょうか。

 

 

最後に、わざわざ町田まで夜お越しいただいた乙武さんやスタッフの皆さま、ケアカレナイトに参加してくださった卒業生、関係者の皆さま、受付まで手伝っていただいた先生方、本当にありがとうございました。そして、最後まで司会を務めてくれた影山さん、お疲れさまでした。7年目を迎えるケアカレの、ひとつの集大成としてのイベントに相応しい集まりになったと思います。これからもケアカレは自分たちにできることをできる限り行い、自ら先頭に立って、さらなるチャレンジを続けていくことを誓います。

 

乙武さんは講演が終わってからも、サインや記念撮影会を開いてくださり、ひとり一人と直接話をしてくれました。忙しい中、ケアカレナイトに来てくださっただけではなく、ここまで対応してくださったことに心から感謝します。