決めつけない

先生としての最大の資質は、決めつけないことだと思います。これはこういうこと、この人はこういう人と先生が決めつけてしまうと、それ以上に物ごとが上手く運ぶことはありませんし、生徒さんは伸びません。生徒さんにとって、それだけ先生は影響力が大きいということであり、時として先生の考え方や見かたが、生徒さんの人生を左右してしまうこともあるのです。だからこそ、先生という職業にある人たちは、物ごとを大きく広く考えられなければいけませんし、そのためにあらゆる教養や経験が必要なのです。

 

私が決めつけないことの大切さを学んだのは、子どもの教育にたずさわっていたときでした。毎朝、生徒さんやクラスについてミーティングをする中で、同じ生徒さんやクラスに対しても先生たちの意見は分かれることが多々あります。ある先生は「あの子は〇〇だからダメだ」と言い、ある先生は「あの子は◇◇は良くできている」と返し、ある先生は「あの子は△△と考えているんじゃないかな」など、様々な見解が出てきます。そのどれもが間違ってはいなくて、どれかが正しいという訳でもない。

 

そんな状況においても、その生徒さんのことをダメだと考えた先生に任せると生徒さんはダメになり、良くできていると考えた先生に任せると生徒さんは良くなり、といった具合に変わっていくことにある時、私は気づいたのです。それは想えば叶うということではなく、念ずれば通ずということでもない、先生がそう考えたことが生徒さんから引き出されてくる(引き出そうとする)のだと思います。だとすれば答えは簡単で、その生徒さんのことを良く考えている先生に任せるべきであり、全ての生徒さんのことを良く考えているのが良い先生なのです。

 

介護職員初任者研修の1月短期クラスに、4年ぶりに参加してくれた生徒さんがいました。彼は15歳の頃、ケアカレに来てくれましたが、いろいろあって途中で受講を断念してしまい、その後、もう一度チャレンジしましたが挫折、再々チャレンジで今回来てくれたのです。4年前の彼はまだ子どもで、介護にほとんど興味がなかった感じでしたが、久しぶりに会うとずいぶん立派になっていて驚きました。もうかれこれ介護の仕事を3年続けて頑張っているそうです。会話の節々から利用者さんのことを考えて仕事をしていることが伝わってきました。人間は変わりますし、成長するものですし、そもそも元々彼の持っていた資質なのでしょう。そのときダメであっても、決めつけずに、時間をかけてでも、引き出してあげることが大切なのですね。

 

介護福祉士の試験が終わって、自己採点のために教室に来てくれた生徒さんも合格点に達していて驚かされました。残念ながら昨年は合格できず、今年が2回目のチャレンジでした。筆記試験対策講座にも通ってくれていたのですが、途中の確認テストの点数も少しずつしか上がって来ず、かなり心配していました。でも、彼女は最後まであきらめずに頑張ったのですね。それまでに解いた問題集も復習し、過去問も何度も解き、小野寺先生がくれた要点プリントも何度も見直したそうです。さらに当日は、形から入ると言って、髪を黒く染めて臨んだそうです。どれだけ言葉を尽くしても、彼女が合格点に達していることの驚きを彼女のことを知らない方に伝えるのは難しいのですが(笑)、とにかく決めつけてはいけないということです。先生方が決めつけることなく応援してくれたからこそ、彼女はその力をいかんなく発揮してくれたのだと思います。