人間性を失わない

4月の緊急事態宣言を受け、およそ1ヶ月の間、休校していましたが、今月7日からは介護職員初任者研修と実務者研修を再開することにしました。町田という地域や感染者数の推移という数字を踏まえ、現時点における感染のリスクは極めて少なく、再開しないことによって生まれる迷惑や停滞の方が多大であると判断しました。介護の現場は休むことなく動いており、その一端に関わらせていただいている学校として、私たちばかりが歩みを止めてしまうわけにはいきません。自分たちの頭で考えて出した結論です。

 

学校は再開しましたが、今までのような形ではないと考えています。これから先しばらくは、湘南ケアカレッジは新型コロナウイルスに感染しないための学校として運営していかなければならないはずです。特にマスクに関しては見て分かりやすいので、同調圧力の声は高まっていくはずです。他校では、ビニール手袋の全員着用を求めてくる声もあったそうです。もしかするとこの先、フェイスシールドを装着して参加する生徒さんが現れたり、それを先生や周りの生徒さんたちにも怒って要求してくるなんてことも…。ゼロリスクを求め続ける限り、私たちは自分の首を自分で締め、周りの人たちの首を締め、行き着く先は感染者やその家族、外国人、海外からの帰国者、高齢者、そして医療従事者、介護職員などに対する偏見や差別、攻撃につながります。

 

私たちは感染症についての知識がほとんどない一般の人々ではなく、介護や医療に携わる専門職を育てるプロフェッショナルですので、今この状況において、この場所で、どのような対策が必要で、何が必要ではないのか、事実と科学的根拠を基に適切な判断をしていかなければならないと考えています。

 

もうひとつの視点としては、感染症の影響はしばらく、もしかすると1年、2年単位で続いていきますので、行き当たりばったりではなく、継続的に行動していけるものでなければいけません。そうは言っても、先生方や生徒さんによっても、リスクに対する考え方や不安の度合いは違いますし、どこまですれば安心なのかも異なるはずです。安全と安心のバランスが崩れているから難しいのです。賛否両論あると思いますが、ある程度のガイドラインがあった方がやりやすいと思いますので以下に書いておきます。もちろん、今後の状況に応じて、さらに厳しくなったり緩めたりもします。

 

・手洗いの徹底

朝、外から来てくれた時に生徒さんたち全員に手洗いをお願いしています。手を洗う習慣は、感染症予防だけではなく、衛生面においても決してマイナスにはならず、継続して実施していける簡単なオペレーションです。ほとんどの生徒さんは、マスクはしていても手を洗っていないことが分かったので、朝、声掛けをすることにしました。初日のオリエンテーションでも手洗いのお願いと場所の説明をしています。正しい手洗いの仕方に関しては、初任者研修の2日目の授業で祐子先生が詳しく教えてくれます。

 

アルコール消毒に関しては、エタノール度のやや低いもの(60%程度)ではありますが手に入りましたので、教室の入り口のところに置いておきます。手洗いをした後に、使用したい生徒さんや先生に使ってもらえればと思います。

 

・マスクの着用

接近して教える(話す)ときには、できるだけマスクを着用しましょう。もし自分が感染者であれば飛沫感染を防げるという目的とお互いの安心のためです。マスクに関しては、感染予防としても飛沫感染を防ぐという意味においてもエビデンスはほとんどありませんので、布マスクでも花粉症対策用のマスクでも構いません。お互いが安心できるという意味合いが大きいと思います。

 

ただし、サージカルマスクの表面でも7日間、内側で4日間もウイルスは残存するという研究結果があるように、外からウイルスを付けて持ってきてしまったりと、マスク自体がウイルスの温床となり媒介してしまう可能性も考えられますので、できるだけ手で触らずに、使い捨てを心がけた方が良いですね。感染症の専門家が外ではできるだけマスクはしたくない、ソーシャルディスタンスが大事というのはそういうことです。

 

・教室内の換気

幸いなことに、これから暖かくなってきますので、教室の窓をできるだけ開けて換気を心がけましょう。これも簡単に継続的にできるオペレーションであり、感染症対策というだけではなく、空気が淀んでおらず開放的であることは良いことです。学校を開催する以上、いわゆる3密の、密集、密接は避けることができません(2mのソーシャルディスタンスを取ることは難しい)ので、密閉だけでも避けることができればと思います。密閉度という意味においては、実は教室の天井の高さや広さも関係があるため、幸いにもケアカレの教室は広くて天井が高いのでクリアできるはずです。

 

このような不確実な状況下では、みんながやるからそうするのではなく、自分たちで考えて行動していくことが重要だと思います。それぞれの業態や地域、年齢層、その時の状況によって、正解は異なるはずです。また、継続性があるのかという指標も大事です。単なる気分でそうするのではなく、一旦立ち止まって、それはやり続けることができることなのかを問うてみるということです。意味がなければやり続けることはできませんし、一度始めてしまったことは理由がなければやめることが難しくなってしまうからです。

 

最後に、湘南ケアカレッジは、「世界観が変わるような福祉教育を提供する」ことを理念として先生方と一緒に作ってきた学校です。そのためには、素晴らしい内容の授業を提供するだけではなく、先生方と生徒さんたち、また生徒さんたち同士の距離感が近く、心の交流が大切でした。この先、新型コロナウイルスに感染しないことだけを目的とすると、人と人との心の距離は離れていくはずです。その中でも、できるだけ人間性を失わない学校であれたらと願います。

 

4月短期クラスの生徒さんで、教室に入ってくるとき、また授業が終わって帰るとき、マスクを手でちょっとだけ外して口元が見えるようにして、「おはようございます」、「ありがとうござました」と挨拶をしてくれた女性がいました。その行為を見て、個人的には素敵だなと思いました。戦時中に、大きな声では言えないけれど私は戦争に反対ですと目で訴えるような感じと表現すれば分かってもらえるでしょうか。

 

 

ケアカレにとっては、「世界観が変わるような福祉教育を提供する」ことと「新型コロナウイルスに感染しないこと」は、どちらが大事ではなく、どちらも大事なのです。そのために何ができるのか、まだ答えは出ていませんが、一個人としてもケアカレとしても、できる限り人間性を失うことなく生きて、いつかまた誰もが笑顔で授業を受けることのできる日を待ちたいと思います。