変わるきっかけ

15日間ありがとうございました。おかげさまで、本人も学校に来てくれるようになりました。髪の毛も黒くなり、ピアスも外して来てくれて、驚きました」

 

 

昨年の平日短期クラスに通ってくれていた、中学校2年生の生徒さんの担任の先生から、上のような電話をいただきました。その話を聞いたとき、心から良かったなと嬉しく思いました。彼女にとって、湘南ケアカレッジの介護職員初任者研修を受けることがひとつのきっかけとなり、彼女の人生が少しでも良い方に変わることを願っていたからです。

 

彼女のお母さまからお電話をいただいたのは、夏休み明けぐらいの時期でした。「お姉ちゃんがそちらでお世話になったのですが、今回は妹をお願いしたいと思いまして。今、中学2年生なのですが、学校に行っていないので、何もしないよりはせっかくだから通わせてみたいと思って。本人も通いたいと言っているので」とさらりと状況を教えてくださいました。

 

最年少記録が小学校6年生を誇るケアカレとしては、中学2年生の女子しかも本人に通う気があるのであればノープロブレムです。数々のやんちゃな10代を更生させてきたケアカレですから、学校に行けていないぐらいは全く心配ありませんしウェルカムです。私も今考えると、学生時代はよくあんなに制限ばかりで理不尽な場所に休みもせずに通っていたなと思います。それしか世界が見えなかったから仕方なかったのと、まあそういうものかとあまり深く考えていなかっただけでしょうか。感受性が強くて、自分の意志がある子どもにとって、学校という空間は息苦しいに違いありません。たしかに社会のレールから外れてしまったような気が本人はするかもしれませんが、全然そんなことはなく、むしろ人間としての自然な感情の発露なのではないかとさえ大人になった私には思えます。

 

さて、彼女は研修の最初の頃こそ、ひとりで大人しくポツンとしている姿が見えましたが、研修が進むにつれ、周りの大人たちから声をかけられたりするうちに次第に打ち解けていったようです。学校では注意される赤く染めた髪も数々のピアスも、一歩外に出て介護の学校に来てみると、「可愛いいね、似合ってるよ」と褒められ、認められます。周りのクラスメイトさんたちは決してお世辞を言って持ち上げているわけではなく、彼女ぐらいの年齢の女の子がおしゃれをしている姿を見て、素直にそう思って言っているのです。

 

通信添削課題も中学生の彼女にとっては簡単ではなかったはずですが、一度も不合格になることなくクリアしたように、一生懸命に取り組んでくれました。実技演習がスタートしてからも、周りのクラスメイトさんたちと楽しく積極的に学んでいました。最後の方は、彼女が中学生であることなど、誰も気にしなくなっていたはずです。20代から60代までの年齢層のクラスの中に見事に溶け込んでいました。実技もとても上手でしたし、最後の筆記試験も高得点で合格しました。10代の半ばで、あらゆる年代の人たちと一緒に学んだ経験は、彼女にとって大きな自信となり、糧となるはずです。担任の先生から聞いた話では、さっそく高齢者の介護施設でボランティアを始めてみるそうです。

 

今の悩んでいる、迷っている若い人たちに知ってもらいたいのは、目の前にある世界が全てではないということです。自分にとっての現実の世界はひとつしかない、自分が今いる状況からどうしても抜け出せない、そう考えてしまうと苦しいのです。これは若者だけではなく大人にも言えることで、自分に見えている、知っている世界なんて、実にちっぽけなものなのです。すぐ隣には全く違う世界があるし、見かたや考え方を変えるだけで、同じ世界もまた違った世界に変わります。

 

そうはいっても、若い頃は知識がなかったり、情報経路や量が少なかったりするため、一歩外に出ると全く違う世界が広がっていることに気づくことができず、だから一歩踏み出すこともできないという悪循環に陥りがちです。大切なことは、周りの大人が違う世界があることを教え、一歩踏み出すために背中を押してあげることです。そのためには、大人が世界の豊かさを知っていなければなりません。

 

 

彼女が湘南ケアカレッジに来てくれて本当に良かったと思います。外にはいろいろな世界があり、さまざまな人たちが社会で生きていて、自分を褒め、認めてくれる人たちもいると知れたことが、彼女のこれからの人生を大きく変えるひとつのきっかけや自信になれば幸いです。