「日本では1年間に何人が死ぬと思いますか?」
いきなり縁起でもない質問ですいません。この問いに正確に答えることができる人は少ないと思います。実は私も8年前までは答えられませんでした。8年前というのは湘南ケアカレッジを開校したとき。当時の説明会では「多死の時代」について話していたことがあります。少子高齢化社会というのは、つまり多死の時代のことであり、介護にたずさわる私たちは特に、誰もが死というものを身近に感じる時代になるという話です。
決して悲観的な意味ではなく、そのような時代において、私たちは死について考え、自分の親の死だけではなく自らの死とも向き合って、寄り添っていかなければならないという主旨でした。介護職員初任者研修では、死についても学びますよ。そんな話をするために調べていたときに恥ずかしながら初めて、多死の時代における国内の1年間の死者数を知ったのです。
知らなかったときは、大体数万人か多くて数十万人ぐらいかと見積もっていましたが、私の想像をはるかに超えて、日本では1年間に100万人以上の人が亡くなっていたのです(2013年時点)。あれから6年が経って、2019年時点では正確には138万人の方々が亡くなっています。恐る恐る1日当たりの死者数を計算してみたところ、138万÷365日で1日におよそ3780名の人々が死んでいるのです。この計算したときに私は素直に驚きました。日本ではそんなに多くの方々が、今日という1日の間に亡くなっているのだと。私の日常感覚とは全く違う現実におののいたのです。
公表されている死因を見てみると、悪性新生物(がん)が27.3%、心疾患(狭心症や心筋梗塞など)が15%、老衰が8.8%、脳血管疾患が7.7%、そして肺炎が6.9%、誤嚥性肺炎が2.9%と続きます。もっと現実的に見て、1日あたりのおよその死因別死者数を計算してみると以下のようになります。
1日当たりの死因別死者数
悪性新生物(がん) 1032人
心疾患 567人
老衰 332人
脳血管疾患 291人
肺炎 260人
誤嚥性肺炎 109人
たった1日でこれだけの人たちが実際には亡くなっているのです。私にはいまだに現実のものとは思えませんが、これが現実なのです。今この瞬間にも生まれてくる生命があるように、失われる命もあるということです。それが自然なのですね。どうしても私たちには身の回りのことしか見えないので、私たち一人ひとりにとっては死は非日常的なものになります。特に近代化された日本では、死という存在自体が忌み嫌われて、日常からは遠ざけられてしまっています。そんな私たちが突然、上のような数字を突き付けられると、現実のものとは思えないと思ってしまうのです。
介護職員初任者研修ではターミナルケアについて学びます。死について話し合ってみる、思いをはせてみることはとても重要です。死について考えることを先延ばしにせず、エンディングノートのような形で伝え合うことも大切です。しかし、もしかするとそれだけでは十分ではなく、死についてもっと俯瞰的に見る必要があるのかもしれませんね。それがなければ、死は日常的なものであり、誰にとっても身近なものであるという実感が湧かないのです。学ぶとは深く学ぶことだけではなく、引いて見る、遠くから物事を見てみる学びもあるのです。多死の時代を大きく考えてみるべき今、そう強く思います。