アラスカへと続く道

卒業生であり、「リタイア、そしてアラスカ」の著者でもある井上さんが、教室に遊びにきてくれました。日本に戻ってきて、介護について学び、残された人生はトラベルヘルパーのような仕事をしてみたいそうです。きっかけは、利用者さんたちを送迎する仕事をしてみて、自分は高齢の方々とお話をするのが好きだと思ったこと、あまり口には出さなくても高齢の人は自分にとっての思い出の場所に行ってみたいという気持ちがあり、それを叶えたいからとのこと。高齢の方々は昔話をするだけでも嬉しそうですが、実際に懐かしい場所を訪れることができれば最高ですよね。

 

たしかに2019年まではトラベルヘルパー的な業種は盛り上がりを見せていました。介護保険外のサービスとして、ドライバーと介護者が同伴することで、行きたい場所に行くことができる。それは自宅から病院への送り迎えといった日常のニーズ(必要性)ではなく、遠くまで旅をしたいという非日常のニーズです。国際福祉機器展などでも、そうしたニーズに応えるサービスが発表されたりしていました。私もとても面白いサービスであり、この先、広がりを見せるのではと期待したものです。

 

ところが、コロナ騒動が始まって以来、不要不急のトラベル的なものは影も形もなくなってしまいました。残されたのは自宅から病院への送迎という日常業務のみ。今でこそ全国旅行支援などで観光業は盛り上がっていますが、利用しているのは健康な高齢者のみ。トラベルヘルパーが対象にしていたような、日常生活の中で介護や医療が必要な高齢者はいまだに自宅もしくは施設に閉じ込められているのが現状です。もし旅行なんかして、何かあったらどうするの?家族はそう言って反対するはずです。

 

もうここまでくると感染症うんぬんの話ではなく、ゼロリスク信仰や死生観の問題ですね。日本は死ななければ良い、ただ生きているだけで良いという社会なのです。以前からそうであったし、コロナ騒動をきっかけに、その傾向は加速したのだと思います。そうした社会に生きるということは、いつか私たちが高齢者になったときにも、私たちもただ生きていることを推奨されるはずです。こうしたいという願いはすべて、危ないからという理由で却下されて、叶えられることはないでしょう。そんな社会に生きたいですか?

 

 

私の夢のひとつに、オーロラを見たいというものがあります。アラスカではなくても、オーロラが見られたらどこでも良いのです。20代の頃からオーロラが見たいと思ってもう20年以上が経ってしまいました。卒業生の井上さんも、「あのときアラスカに行っておいて良かった」とおっしゃっていましたが、思ったときが吉日なのです。未来はありそうでないものです。今こうしたいと思うことは今やらなければいけない。井上さんからいただいたアラスカへと続く一本道を見ると、思い煩うことなく、心のままに進めという声が聞こえてくる気がして仕方ありません。井上さんの新しいチャレンジも応援しています!