あれから2年

およそ2年前に介護職員初任者研修を修了した卒業生さんが、お土産をたくさん携えて教室に顔を出してくれました。彼女は今、埼玉県にある施設で働いており、今年ちょうど成人式を迎えるとこのことで、こちらの実家に戻ってきたそうです。彼女がケアカレに来てくれたのは高校3年生のときでした。卒業後は介護の現場に出ることを選択したものの、高齢者介護が良いのか、それとも障害者支援かと悩んでいたので、相談に乗らせてもらったことを覚えています。最終的には、彼女は自分で選択をして高齢者介護の道に進んだのですが、こうして2年間続けてこられたということは、その選択は間違っていなかったということでしょう。先輩たちに優しく見守られて、頑張っているようです。

 

それでも、「何か悩みはある?」と聞くと、「自分が夜勤のとき、ナースコールが頻回に鳴ったり、認知症の方々が寝られずに動き回ったりして大変です」と返ってきました。先日はついに利用者さんのひとりが転倒してしまって、幸い大事には至らなかったようですが、何もできなかった自分を責める気持ちも出てきているようでした。先輩たちにもそのことを相談してみているようですが、「仕方ないよ」とは言ってくれるものの、具体的な改善には至っていないそうです。夜勤は月に4回とそれほど多くはないようですが、今の彼女にとっては、25名の利用者さんを自分ひとりで見守る夜勤が怖い、というのが正直なところだそうです。

 

詳しい状況までは分からないのですが、ナースコールが頻回であることと、認知症の方々が徘徊してしまうことの2つは切り分けて考えた方が良いと思いました。自分の夜勤のときだけナースコールが良く鳴るのは、ヒアリングしていくと、彼女は新人であるがゆえに、利用者さんからすると小さいことでも頼みやすい職員のようです。先輩たちが夜勤に入ったときは、ちょっとした仕草で頼みづらいなと思わせたり、後回しにされてしまったりして、ナースコールを鳴らすのを控えるのに対し、彼女が夜勤に入ったときはちょっとしたことでも呼んでしまうのではないでしょうか。だからこそ、先輩が夜勤のときはナースコールはほとんど鳴らないのに、彼女のときは忙しすぎるぐらい鳴るということです。

 

それ自体は悪いことではないと私は思うのです。私が子どもの教育にたずさわっていたとき、親切で楽しい先生ほど生徒から人気がありますので忙しくなりますが、対応が悪かったり愛想がない先生ほど周りに子どもたちは少なく、仕事も楽になります。対人援助職において忙しいということは、コミュニケーションの量が多いということです。もちろん、ナースコールが鳴る前に先回りして準備しておいたり、ある程度の優先順位をつけて対応したりという工夫は必要ですが、基本的に利用者さんから頼られなくなったら、その仕事は終わりです。頼られているうちが華なのですから。

 

認知症の方が動き回るのは、あらゆる可能性が考えられるので、もっと客観的に考えてみるべきだと伝えました。自分のときだけ徘徊が多いと思っていること自体が思い込みであるかもしれませんし、自分が夜勤に入るときに動き回って大変な事態になるかもしれないと不安に思えば思うほど、その不安が利用者さんたちに伝わってしまい、利用者さんたちが不穏になり、歩き回ってしまうのかもしれません。また、自分が夜勤に入る前のケアが適切でなければ、お腹が空いていたり、トイレに行きたかったりして夜に寝ないということもあり得ます。目の前の現象に反応するだけでは、何の根本的解決にもならないので、まずは冷静に俯瞰的に問題を見てみることが大事ですよね。

 

 

あれから2年が経って、自分の進路に不安を抱えていた彼女から介護の現場の深い話が聞けるようになるとは不思議なものです。念願のひとり暮らしも始めたそうで、彼女の人生は大きく変わったように思えました。最近、自分の人生がほとんど変わらなくて悶々としていましたが、卒業生さんの成長と変化を感じられて、とても嬉しく思いました。来年は介護福祉士に合格して遊びにきてくれることを楽しみにしています。