「保護犬・猫×福祉のゆくえ」高木真備

8月のケアカレナイトは、「保護犬・猫×福祉のゆくえ」というテーマで高木真備さんにお話しいただきました。高木さんはガールズケイリンで優勝し、賞金女王になった後、保護犬・猫活動をするために引退し、湘南ケアカレッジに来てくれました。私は競輪を知らなかったので、普通の生徒さんとして介護職員初任者研修を15日間学んでくれた最終日に競輪選手であったことを知らされました。その世界のトップを極めただけでも凄いのに、一番良い時期に引退を決め、保護犬・猫活動と福祉を組み合わせようと考えているというアイデアに驚かされました。いつかはケアカレで話してもらいたいと思っていたその願いがついに叶いました。

 

高木さんが運営しているのは、知的・精神障害者のグループホームです。そこにトイプードルのプーちゃんを連れて行き、一緒に生活をしてもらいます。障害のある人たちも、保護犬・猫も、たまたまそのような状況になってしまっただけで、決して自分が望んだわけではありません。そうした者同士が互いにサポートしながら生きていくのです。たとえば、散歩を怖がる利用者さんがプーちゃんと一緒だから外出できたり、拒食症の利用者さんがプーちゃんがレタスを美味しそうに食べているのを見て、食べられるようになったり。

 

「双方が幸せでなければならない」と高木さんは言います。人間だけが幸せであって、犬や猫が苦しんでいたり虐げられていたりしてはいけませんし、その逆も然りです。どちらかが犠牲を強いられるのではなく、どちらも幸せかどうかを考えるということです。当たり前のように思えますが、意外とこの視点は欠けてしまいがちです。つい私たちは、セラピーと称して人間のために動物を使ってしまって、動物がどう感じているかを忘れてしまうことがあります。常に双方が幸せかどうかは確認すべきでしょう。

 

犬や猫を飼っていた高齢者が亡くなることで、保護犬・猫になってしまうケースが最も多いという話にも驚かされました。最多の理由は飼育放棄かと思っていましたが、そうでなないようです。そうなってくると、介護・福祉と保護犬・猫の活動は無関係ではいられなくなりますね。もし高齢者が先に亡くなってしまった場合、必ずと言ってよいほど保護犬・猫の問題が発生するということになります。高木さんは「保護犬・猫をゼロにする」ことを掲げていますが、それでも飼い主に先立たれてしまって引き取り手がなかった犬や猫を、再び福祉の世界に招き入れるという発想は素晴らしいと思います。

 

将来的には、ドッグトレーニングと障害者の就労を掛け合わせたいと高木さんは語りました。もちろん、訓練士さんたちプロの力を借りながらですが、障害のある方々もトレーニングに関わることで共に成長していけるはずです。その中で、人間と犬・猫などの動物が「心を通わせることが大事」だと高木さんは言います。そのとおりだと私も思います。就労になると、どこまで何ができるのかばかりに焦点が集まりがちですが、大切なのは心が通うことです。それは私たち人間と動物にとって最も幸せなことだからです。人間同士でも心が通い合うことは難しいのに、言葉が通じない人間と動物が心を通い合ったと感じた瞬間は双方にとって幸せです。高木さんにはこれからも、人間と動物が心を通い合わせる瞬間をつくる仕事をつくって行ってもらいたいと願います。